暴力的過激主義と戦う

◆テロを現象面からとらえる

10月末、トルコの保養地アンタルヤで、世界の研究者と実務家を集めた「暴力的過激主義対策」のシンポジウムがあった。主催したのはアブダビ(アラブ首長国連邦)にあるこの分野の独立した世界的研究センター「ヘダーヤ」だ。今更の議論だが、世界的関心事である「テロリズム」について、国際社会は統一した定義を提供することができない。ある国のテロリストは、別の国や民族にとっては「自由の戦士」であるかもしれないからだ。つまり、「イスラム国」(IS)やアルカイダが怪物のように急成長した背景には、そのような民族、宗教間の不一致が横たわっている。そこで国際社会はこの問題をより現象面から捉えることとし、いわゆる「テロ」を起こすのは、暴力を肯定する過激主義の萌芽と成長であり、これと戦い、また防止するために具体的な行動を起こすことが、世界の安全と人権を守る有効な手段であると考えるようになった。イスラム過激主義の研究を深める上で、このアプローチは避けて通れない。そんな思いから今年で第4回を迎えた国際シンポに参加した。

◆SNSの「エコー・チェインバー」効果

驚いたことに、初日の発表者の多くは、イスラムの教義を淵源とする過激主義ではなく、欧米社会がイスラム主義の台頭と共に苦悩している彼ら自身の「極右」思想の広まりについて語った。暴力的過激主義との戦いにおいては、ソーシャルメディア(SNS)を使った宣伝、洗脳、リクルート活動等をどのように防ぐか、という論点が一つの柱をなしている。ISはその効用を最大限に利用して、にわか「ジハード(聖戦)戦士」を獲得、欧米で惨劇を起こさせたが、欧米の「極右」勢力もまた、SNSを駆使して①問題提起をし、②共鳴する仲間を集め、③一つの過激思想を信奉させ、④行動を扇動する―という過程を踏襲していることが報告された。とりわけ、この過程で大きな役割を果たすのがSNSの一大特性である「エコー・チェインバー」効果である。「エコー・チェインバー」とは、ある特定の教義だけが唯一正しいものとして密室の中で反響し、参加者は異なる意見を持つことができなくなる状態をいう。このような特性を持つSNSは、使い方ひとつで、イスラムであれ、他宗教であれ、はたまた世俗的な極右思想であれ、それを過激化、暴力化させる上で最も強い力を発揮する道具となる。

◆日本も他人事ではない

外国人の入国者数が倍々ゲームで増え、2020年東京五輪をも控えている我が国においても、暴力的過激主義による事件の発生は刻一刻と近づいているのではないか。そういう明確な問題意識の下に当局は研究と情報収集に当たっているに違いない。しかし我々が今注意すべきは、何もイスラム系の過激主義だけではないようだ。英国の「ブリテン・ファースト」や、豪州の「リクレイム・オーストラリア」といった極右の過激主義団体が、SNSの力を借りて急激に勢いを増したように、日本でも似たような状況が起こり得るのではないか。民族的、宗教的に均質性の高い日本社会では、過激主義は起こりにくく、ましてその暴力化はあり得ないと考える向きも多かろう。しかし、いわゆる「ネトウヨ」や「ヘイト・スピーチ」の問題は日本人同士、または、近隣諸国出身者との間で、既に摩擦を起こしている。ほとんどの国民にとってSNS利用が日常となった今、国民一人ひとりが、このバーチャルなコミュニケーションの特性や危険な点をより良く理解し、リテラシーを高めていく必要があると思い至った。