イランがシリアに投げかける長い影

◆イスラエルと直接対決の構図

シリア内戦は落ち着きを見せ、これからは復興だと考える気の早い人もいるかもしれない。トランプ大統領は米軍を撤退させると言い、一部の湾岸諸国は既に大使館再開の意向を公にしている。しかしそんな中、イスラエル軍機がダマスカス郊外の「イラン革命防衛隊の拠点」を爆撃した。イラン側もゴラン高原に中距離ミサイルを撃ち込んだという。アラブの識者は「イランがイスラエルと直接対決する構図が出来上がったのは、後者の建国以来初めて。重大な戦略的変化だ。これだけで終わらない」と警鐘を鳴らす。イスラエルは、国境から80キロ以内にはイランの兵力を立ち入らせない、との暗黙の約束をロシアから得ていた。しかし、現実には「彼らはゴラン高原から数キロ地点の基地に駐留している」(イスラエル軍事筋)のであるから、イスラエルが安全保障上の脅威を感じるのは当然だ。イラン強硬派の中には、「今こそイスラエルを海に追い落とせ」と檄を飛ばす者まで現れた。

◆中東の至る所に魔の手が・・・

このように、「気がつけば、至る所にイラン神権政治の魔の手が伸びていた…」というのが、イラン・イスラム革命から40年目を迎える現在の中東の偽らざる姿である。この事態を恐れたが故に、米国はイラクのフセイン政権をけしかけてイラン・イラク戦争を起こしたし、湾岸産油国は団結して湾岸協力会議(GCC)を結成したのだった。ところが何ということか。米国は自らの軍隊を送ってフセイン政権の方を倒し、イラクをイランの前庭に提供してしまった。そのことが、シリアの戦況に直結した。GCCはと言えば、内紛を起こして空中分解だ。イエメンでは、世界で最も豊かで、最新鋭の軍備を誇るサウジアラビアとUAEの連合軍が、イランの支援するフーシ派反乱勢力を全く制圧できない。そればかりか、イラン製の弾道ミサイルが正確に首都リヤドやアブダビめがけて着弾するというおまけまで!
このような事態を前に、米国は2月13、14日という日程と会場を定めて、「反イラン・サミット」の異名を持つ「ワルシャワ中東会議」を計画、主要国を招請する動きに出た。しかし、EUとそのメンバー国の反応は鈍い。相次いで、欠席の意向が表明された。このように欧州がイラン制裁に後ろ向きである理由は単純でないが、国際協定を「手のひら返し」で反故にする野蛮さを欧州は持ち合わせていないし、シオニズムを無条件に肯定する米国のイスラエル支援外交には与しない。

◆反イランで利害一致のアラブ諸国

それでも、このような中東のパワーバランスは、単に平和と安定をもたらさないだけでなく、大きな紛争の種を蒔き続けている。トランプ大統領が「シリア撤退」をツイートしたとき、「米国はイラン攻撃を計画していて、その時の報復攻撃の対象とならないよう、兵士を帰国させたいのでは?」との観測が直ちにネット上を賑わせた。それほどイランの勢力伸長は中東各政権の疑心暗鬼を呼んでいるのである。
その一方で、サウジアラビアなどイスラエルとの「和解国家群」のイスラエルとの共働、軍事同盟関係は漸進するだろう。シリアにおけるイランの革命防衛隊、及びイランの息のかかった民兵勢力を叩き、放逐したいという動機で、イスラエルとこれらアラブ諸国は完全に利害が一致するからである。
事態は悪化の一途であり、楽観は許されない。欧州が協力しない場合も、米・イスラエルは単独行動に踏み切るだろうし、「和解国家群」は我先に米・イスラエルに同調する。