真の敵はスンニ派過激主義

◆説明がつかない化学兵器使用

「自国民を攻撃するはずがない」と、シリアのムアレム外相は化学兵器の使用を否定したが、アルジャジーラの人気番組に登場したある評論家は「何が自国民だ。彼らは頼みもしないのにやってきてイスラム教徒を抑圧し続けている異邦人だ」とののしった。シリアの内戦は、少数派のアラウィ派を核とするバース党独裁政権と、これに抑え付けられていた多数派、スンニ派の反乱の戦いである。そのスンニ派住民、特に子供が神経ガス中毒症状を呈して大量死しているのだから、政権側が化学兵器を使ったであろうと疑われるのは当然だ。しかし、アサド政権側の「応援団長」であるプーチン露大統領が言うように、圧倒的な軍事的優位を保っていた政権側がなぜ自殺行為となる化学兵器使用に踏み切ったのか、まったく説明がつかないのも事実だ。

◆アルカイダの「自治領」出現も

オバマ米政権が軍事攻撃の立場を後退させたのは、しかし、この点が曖昧だったからではない。ありもしない大量破壊兵器の存在をでっち上げてイラクを攻撃した時とは異なり、化学兵器の存在は今回の方がより明白だ。要は動きたくないのである。その理由は、イラクやアフガニスタンからようやく撤退したこの時期に三たび戦争、というわけにはいかない台所事情もあるが、何より、アサド政権が倒れると、米国とその同盟国イスラエルに、より困った状況が出現するからだ。現在反政府勢力を牛耳っているのは、イスラム過激主義武装集団であり、イラクからシリアに至るアルカイダの「自治領」が出現する恐れすらある。政権崩壊後の始末の悪さは、エジプト、リビアの比ではない。

◆中東の火遊びは危険なステージに

このような事態を招いたのはブッシュ政権の責任だ。「ビンラディンを殺しても百人のビンラディンが現れる」と、当時、同政権の対テロ戦争に強く警告を発したのは、皮肉にも、革命で投獄され、今は復権著しいエジプトのムバラク元大統領である。米国は、アサド政権を支えているイランのシーア派神権政治を目の敵にしていると巷間言われるが、より恐ろしいのは自爆テロを天国への特急券と教えてはばからない、スンニ派聖戦組織の方だ。そこにムスリム同胞団がイスラム圏全体にまん延し、聖戦組織の新兵勧誘を容易にしている。ロシアの加勢した中東の火遊びは、第三次世界大戦をも招きかねない危険なステージに近づいている。