イラクは三分割の可能性

◆戦争が常態

今年の初め、バグダッドを訪問する機会があった。会議通訳の依頼だった。治安情勢は昨年暮れあたりから最悪になっていたため、空港からホテルに防弾チョッキを着て護送され2日間ホテルに缶詰めになった後また「護送車」で空港に引き返すという悲惨な出張だった。イラクはこの35年間を見ても戦争続きで、「混沌」が常態である。歴史を振り返っても、有能な独裁者によって強権的に治められたときだけ束の間の平安が訪れるという、民主主義とは無縁の国だ。帰国後、筆者は、間もなくイラクが三分割されクルド人が独立に動き出す、という原稿を書いた。

◆サウジとイランの代理戦争

今後の情勢の行方を占う上で重要なことが幾つかある。イラク戦争に「勝利した」筈のイラク駐留米軍は、戦闘が終結した後にスンニ派・シーア派双方のテロに遭い、多数の犠牲者を出した揚句、満足な安全保障協定を結ぶこともできないまま事実上追い返された。マリキ首相は今になって空爆要請などをしているが、オバマ政権としては公約である撤退方針や中間選挙対策といった事情を抜きにしても、イラク政府の要請は虫が良すぎると感じていることだろう。第二に、スンニ派(部族+旧政権+ISIS)とシーア派(マリキ政権)の対立の構図はサウジアラビアとイランの代理戦争であり、米国がマリキ政権を支援するなら、これまでの友邦であるサウジに弓引き、仇敵イランと手を結ぶことになる。
 

◆漁夫の利を得るクルド人

第三に宿願であったキルクーク奪還にまんまと成功したクルド人は、スンニ派とシーア派の争いが深まれば深まるほど漁夫の利を得る。独立の気運は急速に高まるだろう。最後に、自己の勢力拡大に執心するあまり本来共闘すべきアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」とも戦火を交え、ザワヒリ師に破門されたISIS(イラク・シリアのイスラム国)に未来はない。この「道義なきテロリスト集団」はシーア派を蹴散らすという共通の目的達成まではスンニ派部族や旧政権の残党たる有力政治家に利用されるが、人心を掌握できず没落するのは時間の問題であろう。