「イスラム国」が衰えない理由

◆攻勢をそぐのが精いっぱい

情勢分析をする専門家が好んで用いる言葉に「中東政治の方程式」がある。その変数は、石油資源などの権益に群がる諸外国の与える影響、冷戦時代に後戻りしたかのように対立する米、露の介入といった外的要因から、トルコ対クルド、アラブ対ペルシャ、イスラム対ユダヤといった民族・宗教対立、果ては、シーア対スンニという宗派間対立などの内部要因まで、さまざまだ。その計算結果は近年「安定」を示したことがない。それどころか、今後もまた不安定さを増すと出ている。米主導の「有志連合」が空爆を開始してから一カ月以上経過したが、目覚ましい成果は見られず、「イスラム国」の攻勢を削ぐのが精いっぱいといった状況のようだ。

◆腰が引けたサウジアラビア

有志連合に参加した諸国は、人類の文明とその価値観に敢然と挑戦した「イスラム国」を攻め滅ぼすべしとの認識を共有している。しかし、内実を見るとそうではない。先々週、サウド外相の口を通じて「シリア占領軍は撤退せよ」と言わしめたサウジアラビアの対イラン敵対心、警戒心はスンニ派優位の同国の国家体制の存立そのものに関わっている。イエメンを乗っ取る勢いのホウシー派(シーア派)の攻勢や、バーレーンと東部州に分布するシーア派住民の反乱対策に悩むサウジアラビアにとって、「シーア派の弧」を分断して、シリア・アサド政権とイラン間の連絡輸送経路を閉ざしている「イスラム国」には一定の効用があり、これを敢えて攻め滅ぼす必要性は乏しいのだ。だから、腰が引けている。  

◆軍事的解決は不可能

米国は米国で、「イスラム国を破壊するには何年もかかる」との立場だ。つまり、そもそも地上軍を投入する意思すら皆無のオバマ政権が退場するまでは、軍事的解決は不可能だ。では、今、地上軍を投入すれば問題は解決するかというと、その認識すら楽観的に過ぎると言える。預言者の後継者を指導者に頂くイスラム共同体の建設という構想自体は、独裁者からの解放、パレスチナのユダヤ人からの解放、欧米キリスト教社会への隷属からの解放、といった現代のイスラム教徒の抱える大義と結び付いている。そこに至る戦術がかなり野蛮であったにしても、だ。ザルカウィの死後、2人のバグダーディが継いだように、指導者は次々と現れ、またこれに付き従うイスラム戦士の流入も止めることはできないだろう。