カダフィの亡霊

◆開かれた武器庫

2011年2月25日、反政府勢力の一段の攻勢が伝えられる中でカダフィ指導者(当時)は演説に立ち、「武器庫を開ける」と絶叫した。その目的は「人民ひとりひとりに、そして全ての部族に武器を行き渡らせるため」であるとし、「人民が一丸となって敵と戦おう」と政権への支持を訴えた。この予告通り武器庫は開かれて大量の武器弾薬がばらまかれた。それは、リビア国内だけでなく、主にサブサハラ・西アフリカ方面へと流れ、皮肉にも、カダフィ追い落としでリビアに漁夫の利を狙ったフランスの権益を直撃した。マリ、ニジェールやナイジェリア方面のイスラム過激主義者を勢いづかせ、また、アルジェリアのイナメナスで発生した人質事件にも使われて、極東の尊い命も奪った。

◆退役准将の反乱拡大

現在、リビアは国民議会に正統性を求める暫定政府により代表されているものの、当初目指した「刀狩り」と武装組織の正規軍編入は成功せず、市中には今も約2000万丁の火器が滞留し1700余の武装集団が覇権を争っていると言われる。そのような中、ハフタル退役准将の反乱が拡大している。20年前にカダフィに反乱を起こそうとした人物で、2月には実態もないのに「全軍を掌握した」とテレビ会見して物議を醸したかと思えば、今度は本当に西部ベンガジで大きな戦闘を起こし、首都トリポリでは国民議会を襲撃して、多数の死傷者を出している。この他、3月には武装勢力が実力で原油積み出し港を制圧、原油を輸出しようとして、米特殊部隊の介入を招いた。

◆避けられない破綻国家化

問題は、中央政府に武装勢力の勝手な振る舞いを押さえ付けるだけの力がないことで、専門家の多くは「内戦」と「破綻国家」化を危惧している。破綻国家といえば、その代表例アフガニスタンは、アフガン戦士と呼ばれる「イスラム聖戦士」を全世界に拡散させ、前世紀末からのイスラム・テロの時代をもたらした。リビアの破綻国家化は、その広大な領土の南部・砂漠地帯を武器や麻薬の密輸基地とさせ、テロリストに安住の地を与えることと同義だ。そしてよほど欧米が積極的な介入をしない限り、同国の破綻国家化は避けられない。カダフィは死んだが、その亡霊は、リビアの石油利権を共謀してわが物にしようとした仏・カタール連合の野望をくじいただけでなく、全世界を苦しめ続けている。