放送通訳裏話

きのう、30日朝のNHK‐BSおはよう世界の仕事は、久しぶりに忙しかった。
6時台、7時台にキャスターが世界の主要ニュースを紹介していく、というのがこの番組の基本テーマである。アルジャジーラは、イラク戦争を契機に導入して以来、1、2年前までは常にこの番組の主役だった。
通訳者は、素材となるアルジャーラのニュースを全部聞いて要点をまとめておく。そして、キャスター、ディレクターとの協議で、その日に紹介すべきニュース項目を選ぶ。重要なニュースは、おはよう世界で取り上げることになる。これを現場用語で「切り出し」と呼んでいる。30日、わたしが「切り出した」のは「イラン大統領の再選を護憲評議会が再確認」、「米軍がイラク都市部から撤退」、「イスラエルの新たな入植地建設計画」という3本だった。
NHKのニュースセンターには、衛星放送部だけで常時15人程度の放送通訳者が詰めている。米、英、仏、ロシア、西、独、などの多言語で各国のニュースをカバーするためだ。その中でアラビア語ニュース(アルジャジーラ)がメインニュースの半分程をひとりで独占する、というのはやっていて痛快である。また、一通訳者として、という感覚の他に、私としてはアラビア語通訳者をとりまとめている親方としての安堵感に直結している。
1,2年前までは、と書いたが、実に少し前まではそのようなことが常態としてあった。世界の関心が中東に向いていたからだ。ところが、米大統領選挙報道が白熱し始めたころから、中東ニュースはほとんど取り上げられなくなった。そこで、これまでは、さびしい思いをしていたのだ。
実を言うと、世界が関心を向けていないから、といって中東にニュースがないわけではない。ただ、イラクの爆弾事件で50人が死んだ、100人が死んだ、といっても、これが毎日続くと、ひとは、「え、きょうは35人?少ないわね。ボツにしましょう」となる。ニュースとはそのようなもので、人間が犬に噛みついた方が面白いのだ。
中東のニュースは、きのうもそうだったが、暗い話、人の不幸の話ばかりである。アルジャジーラは、そうでないルポものも偶にやるが、それを取り上げるような余裕はいまのところ日本人の心にはない。中東で不幸があればあるほど、わが社は忙しくなる。そんなジレンマからまだ当分抜け出せそうにはない。