◆まさに戦争
これまでに約11万人が死亡し、数百万人の難民を出しているシリアの内戦をどうにか解決することは国際社会の第一優先課題だが、隣のイラクの治安情勢も極めて憂慮すべき状況にある。爆弾テロが止まらず、毎月千人前後が死亡、その何倍かの数の人々が負傷するというのはまさに戦争だ。今年1月からの死者数は既に6千人近くに上っており、手口も陰湿化、小学校に仕掛けられた爆弾で、学童ばかりが死亡する事件も起きた。シリアと共通する冷酷な事実は、罪のない市民がいわれもなく命を奪われていることだ。ところで「その原因は本当に宗派間対立なのか」という汎アラブ紙の論説が目を引いた。
◆原因は宗派間対立ではない
答えは、論者の意見を聞くまでもなく「ノー」である。実際に爆弾を仕掛けたり、武装して暗殺事件を起こしたりしているのは、スンニ派、シーア派双方のタイトルを冠した「過激派武装集団」であり、宗派全体として敵対しているのではない。武装集団は、お互い「敵陣」のソフトターゲット(一般市民の集まる市場、モスク、学校など)を付け狙っては社会不安を起こし、政治的目的を達成しようとしているのである。それは政治的な権力闘争であり、イラクの異常さは、国会で向き合い、論戦している者同士が、裏でこのような武装勢力を支援していることだろう。一般市民は、本来隣人がシーア派であれ、スンニ派であれ、仲良くあいさつし合うのが当たり前だ。
◆明るい見通し持てず
周囲を海に囲まれた日本と違い、イラクは国境の全てが砂漠と山岳地帯で「くせ者」の国々と接している。よほどの治安維持体制を敷かない限り、武器・爆発物の密輸、テロリストの侵入を防ぐことは不可能だ。フセイン元大統領のかつての恐怖政治は、奇跡的にこの国の治安を安定させていた。表現の自由こそなかったが、スンニ派とシーア派の間の婚姻も普通に行われていた。しかし米軍他の侵攻でこの強権政治が永遠に失われた今、新たな独裁政権による支配か、国家分割以外、この国に安らぎの夜を保障する手段はなくなった。とりわけロシアとイランが中東に復権を遂げた今、米国や湾岸スンニ派王制国家とその権益を相手とする代理戦争の圧力は増す一方だ。明るい見通しが持てない