「リビアの春」は開花するか

◆傭兵中心のハフタル軍敗走

 ツイッターで560万人以上のフォロワーを有するファイサル・カーシム(シリア人)は、アラブ世界で最も著名なジャーナリストの一人である。そのファイサルが「ハフタルはどこに消えた?」とつぶやいた。

 ハフタルとは旧リビア国軍の将官で、カダフィ大佐の失脚後、内戦が続いていたリビアで東部を拠点に「リビア国民軍」と称する反政府勢力を率いる人物だ。このハフタル派はフランス、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどの支援を受けて傭兵中心の戦いを進め、一時はリビアの首都トリポリの国民合意政府を陥落寸前まで追い込んだ。

 しかし、その時トルコがシリアで集めた傭兵を投入するという奇策に出て情勢が転換、ハフタル派は敗走を余儀なくされた。そして、「米国がリビア問題を解決することに決めたので、ハフタルは政治の表舞台から姿を消したのだ」とファイサルはツイートした。

◆カダフィの死から10年、分裂から統一

 リビアの議会は東西に分裂していたが、このような経緯もあり昨年和解し、3月10日には統一された議会が実業家のアブドルハミド・ドベイバを首班とする暫定内閣の成立を承認した。外相には、リビア史上初めて女性(ナジュラ・マングーシュ)が選ばれた。

 東日本大震災の10周年は、リビアやシリアの革命からも10周年である。カダフィの死から10年を経て、リビアにようやく本格的な春が訪れようとしているかのように見える。
しかし、なぜハフタルは突然おとなしくなってしまったのか。また、これまで彼を支援していた国々の、地下資源豊富なリビアへの野望はついえてしまったのだろうか。

 冒頭のツイートには「リビアには元帥の称号を有する傭兵もいる」と、「元帥」ハフタルを揶揄(やゆ)する表現もある。元来リビア人のハフタルが傭兵呼ばわりされるほど、各国は露骨な軍事支援をハフタルの軍団に行い、リビア再建後の影響力を確保しようとしていた。とりわけUAEやエジプトは、追放したイスラム過激主義組織「ムスリム同胞団」がトリポリに集結しているとして対決姿勢を鮮明にしていた 。

◆バイデン米政権で状況一変

 こうした状況を一変させたのが、バイデン米政権の始動だ。UAEやエジプトが勝手気ままな強権外交や軍事支援ができたのは、トランプ前政権のお目こぼしがあったからだ。しかしバイデン政権は、人権抑圧やこれにつながる武器供与等の動きに厳しく目を光らせている。

 UAEはトランプ前大統領の願いを聞き入れてイスラエルと国交を正常化したが、その際、UAEへの最大の褒美となったのがF35戦闘機だ。トランプ氏は退任の数時間前、中東ではイスラエル以外に保有が許されていないこの最新鋭機の売却を許可し、強引に署名した。

 ところが、バイデン政権となり、この取引は凍結されたと報じられた。ジャーナリスト殺害への皇太子の関与が問題視されているサウジアラビア同様、UAEやエジプトは米政権との関係修復に迫られる。

 バイデン政権がどの程度真剣にリビアの安定化に取り組むか現時点では未知数だ。ロシアの傭兵部隊ワグナー社や、トルコが投入した民兵部隊は依然リビアにとどまったままだ。自国民同士が外国勢力の代理で戦い殺し合う愚を止めるために、対立を乗り越えたリビアの新指導者達としては、米国の積極的な関与を引き出し、実効ある支配を確立したいところである。

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