タリバンと戦えと言う人たち

◆「アフマド氏を支援せよ」とパリ市長

 東京オリンピックの閉会式で五輪旗を受け継いだパリの女性市長イダルゴ氏がほえた。タリバンが支配するアフガニスタンのパンジシール渓谷で、唯一抵抗しているアフマド・マスード氏を支援せよというのだ。

 「自由を愛するアフガニスタンの人々を狂信的な体制の闇の中へ送ってはならない。国際社会と欧州、フランスは戻らなければならない」とツイートした市長は、「ルモンド」紙にも思いの丈をぶちまけた。「若い女性を強制的に結婚させるなどということは人道的確信を持って拒否する」「テロリストはすぐにもタリバンの下に安全なアジトを見つけるだろう」と主張するのである。

 イダルゴ氏は今年3月、アフガニスタンの国民的英雄、故マスード司令官の長男であるアフマド氏をパリに招き、亡父の名を冠した通りの命名式を行って歓待していた。現在は野党の社会党出身の市長だが、多くのフランス国民のアフガニスタンに対する感情を代弁しているのかもしれない。

◆ブレア元英首相も撤退に異論

 100年に1度あるかないかの超大国・米国の「敗走」だ。ベトナム戦争以上に恥ずかしい目に遭って、なお腰の引けているバイデン米大統領に対し、同じように恥をかかされた英国、ドイツなどの高官はカンカンである。英保守党のマーサー元国防相は、アフガニスタンに派遣された経験を有し、英軍は米軍なしで戦えると主張している元将校。「英軍と戦死者遺族にとって屈辱だが、それ以上にアフガン市民にとっての悲劇だ。それにもかかわらず英国はこの敗北を選択した。恥ずべきことだ」と嘆く。

 また、「アフガニスタンの人々を見捨ててはいけない」と自身が主宰する研究所のサイトから声高に抗議の声を上げたのは、20年前、英国を対アフガニスタン戦争に導いたブレア元首相である。「(撤退は)大きな戦略で決められたのではなく『政治的な』決定だった。それはする必要のなかったことだったが、われわれはそれを選んでしまった。『永遠の戦争を終わらせる』という不器用な政治的スローガンに従ってしまった」。主語はWe(私たち)で書いているものの、バイデン政権の身勝手さを厳しく追及する内容だ。

◆中村哲氏と異なる点

 ブレア氏は、①まず西側を助けたアフガン市民の退避とその保護に全力を尽くし、②主要7カ国(G7)が結束してタリバンに最大限の圧力をかけるべきだと主張した。そして、③ステレオタイプの「イスラム過激主義」の脅威を説き、これに対抗していく必要性を長々と訴えた。「西側の政策決定者たちは、それを『イスラム過激主義』と呼ぶことすら合意していなかったが、もしそれが戦略的な挑戦であると認識していたなら、アフガニスタンから撤退いう決定は決してしなかっただろう」と、自身の20年前の選択を擁護しつつ、どう武力介入すべきかまで議論する。

 さらに、「アフガン経済の規模は2000年当時に比べて3倍になり、今年は女性5万人を含む20万人が大学に通っていた」と指摘し、道半ばでアフガニスタン復興を諦めざるを得なくなったことを悔しがった。「過ちの上に過ちを重ねた」と言いつつも、ブレア氏は、欧米式の発展モデルをアフガン市民が受け入れ、社会の価値観まで欧米式にさせることは当然、と考えているようだ。

 しかし、これが、アフガニスタンでかんがい技術と持続可能な農業のやり方を教え、政治のことは住民次第と任せていた中村哲医師のアプローチと決定的に異なるところである。もし、反省のない人々の勇ましい言葉に従えば、国際社会は旧ソ連、米国に続き三たび失敗するかもしれない。

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