「SNS」タグアーカイブ

強権政治 最大の敵はSNS

◆「春」から7年後のアラブ世界

強権政治への民衆革命と言われた「アラブの春」から丸7年。米国に亡命中のサウジアラビア知識人ジャマール・カショギ氏は最近、「少なくともその発端であるチュニジアが元気で、人々が憎しみあったり、抑圧されたりしていないことは喜ばしい」とツイートした。
7年後のアラブ世界では、シリア、イエメン、リビアなどで同胞同士が殺し合う戦争が今も続いている。
また、「反革命」クーデターで政権奪取に成功したエジプトのシシ大統領は、大統領選の対立候補を収監してまで、事実上の単独候補となるよう策謀し、独裁の基盤を固めている。多数の富豪をリッツ・カールトン・ホテルに「招待」して逮捕し、1000億ドル以上を文字通り巻き上げたサウジの事件は、その特異性ゆえ広く知られることとなったが、その前の昨年秋に行われた文化人、思想家、宗教指導者等の大量逮捕については報道も少なく、わが国における関心は低い。中東各国が強権政治下にあり、人権が蹂躙されている、というのは今に始まったことではなく、ニュースに値しない、という極論もあろう。

◆フォロワー多い知識人を大量逮捕

しかし、サウジアラビアやエジプトに見られるこの強権回帰の現象は、30年以上も時計の針を逆回しする反動現象であり、注視する必要がある。カショギ氏はそもそもサウジ政府お抱えの論客であったが、異変にいち早く気づいて亡命した。もし国内で執筆活動を続けていたら、他の有識者仲間同様に逮捕され、今も裁判を受けることなく留置されている可能性が高い。同国のムハンマド皇太子は、今月訪米した機会に米CBSの番組でこの問題を聞かれ、「過激主義との戦い」であると強調した。しかしカショギ氏も、また、逮捕されたイスラム思想家の中では代表格のアウダ師も、過激主義とは程遠い人物である。
では、皇太子はいったい何と戦っているというのか? 逮捕された人々に共通なのは、ソーシャル・メディア(SNS)を通じたフォロワー数が非常に多く、その社会的影響力が大きいということだ。「アラブの春」は別名SNS革命でもある。「ナンバー2を作らない」は今もアラブ政治の鉄則であるが、SNSの人気者は絶対王政を維持する上で、最大の敵なのである。

◆テロ対策でも人権擁護は譲れない

SNS対策は、過激主義対策における基本的な柱である。イスラム過激主義者や、欧米極右団体のテロ呼びかけはSNSを通じて広まっており、これを制限したり、犯罪として摘発していく必要があるのだ。
公共の利益を優先するためには、SNSは先進国においても監視され、場合によっては制限をかける必要がある。しかし、それだけに思想と表現の自由、基本的人権は擁護されなければならない。逮捕後に釈放され、ロンドンに亡命しているサウジアラビアの法律家は、「かつてサウジには世界に誇れる刑事行政手続が人権を保障していたのに」と嘆く。「法の支配」は近代国家にとって譲れない大原則であり、絶対王政といえども、この原則が揺らぐようでは専制政治のそしりを免れないだろう。
サウジで起きたことは、わが国で例えるなら、池上彰氏が亡命を余儀なくされ、古賀茂明氏が留置されているような事態である。そのようなことが起こらないニッポンの僥倖を喜びたいが、このような社会は不断の努力で維持しなければいつ危うくなるかわからない、ということを財務省の決裁文書書き換えをめぐる政治の混乱を伝えるニュースを見ながら考えた。

暴力的過激主義と戦う

◆テロを現象面からとらえる

10月末、トルコの保養地アンタルヤで、世界の研究者と実務家を集めた「暴力的過激主義対策」のシンポジウムがあった。主催したのはアブダビ(アラブ首長国連邦)にあるこの分野の独立した世界的研究センター「ヘダーヤ」だ。今更の議論だが、世界的関心事である「テロリズム」について、国際社会は統一した定義を提供することができない。ある国のテロリストは、別の国や民族にとっては「自由の戦士」であるかもしれないからだ。つまり、「イスラム国」(IS)やアルカイダが怪物のように急成長した背景には、そのような民族、宗教間の不一致が横たわっている。そこで国際社会はこの問題をより現象面から捉えることとし、いわゆる「テロ」を起こすのは、暴力を肯定する過激主義の萌芽と成長であり、これと戦い、また防止するために具体的な行動を起こすことが、世界の安全と人権を守る有効な手段であると考えるようになった。イスラム過激主義の研究を深める上で、このアプローチは避けて通れない。そんな思いから今年で第4回を迎えた国際シンポに参加した。

◆SNSの「エコー・チェインバー」効果

驚いたことに、初日の発表者の多くは、イスラムの教義を淵源とする過激主義ではなく、欧米社会がイスラム主義の台頭と共に苦悩している彼ら自身の「極右」思想の広まりについて語った。暴力的過激主義との戦いにおいては、ソーシャルメディア(SNS)を使った宣伝、洗脳、リクルート活動等をどのように防ぐか、という論点が一つの柱をなしている。ISはその効用を最大限に利用して、にわか「ジハード(聖戦)戦士」を獲得、欧米で惨劇を起こさせたが、欧米の「極右」勢力もまた、SNSを駆使して①問題提起をし、②共鳴する仲間を集め、③一つの過激思想を信奉させ、④行動を扇動する―という過程を踏襲していることが報告された。とりわけ、この過程で大きな役割を果たすのがSNSの一大特性である「エコー・チェインバー」効果である。「エコー・チェインバー」とは、ある特定の教義だけが唯一正しいものとして密室の中で反響し、参加者は異なる意見を持つことができなくなる状態をいう。このような特性を持つSNSは、使い方ひとつで、イスラムであれ、他宗教であれ、はたまた世俗的な極右思想であれ、それを過激化、暴力化させる上で最も強い力を発揮する道具となる。

◆日本も他人事ではない

外国人の入国者数が倍々ゲームで増え、2020年東京五輪をも控えている我が国においても、暴力的過激主義による事件の発生は刻一刻と近づいているのではないか。そういう明確な問題意識の下に当局は研究と情報収集に当たっているに違いない。しかし我々が今注意すべきは、何もイスラム系の過激主義だけではないようだ。英国の「ブリテン・ファースト」や、豪州の「リクレイム・オーストラリア」といった極右の過激主義団体が、SNSの力を借りて急激に勢いを増したように、日本でも似たような状況が起こり得るのではないか。民族的、宗教的に均質性の高い日本社会では、過激主義は起こりにくく、ましてその暴力化はあり得ないと考える向きも多かろう。しかし、いわゆる「ネトウヨ」や「ヘイト・スピーチ」の問題は日本人同士、または、近隣諸国出身者との間で、既に摩擦を起こしている。ほとんどの国民にとってSNS利用が日常となった今、国民一人ひとりが、このバーチャルなコミュニケーションの特性や危険な点をより良く理解し、リテラシーを高めていく必要があると思い至った。