No.25 / 2002.09.17

***** global middle east ************* issue No.0025 **********
グ ロ - バ ル  ミ ド ル イ ー ス ト
*** From Erico Inc. Editor/Ken-ichi Matsuoka **** 17/09/2002***

朝晩の涼しさに秋の気配を感じさせる今日この頃。いかがお過ごしですか。中東アラブ地域も気温が下がり、穏やかな旅行シーズンの到来です。戦争不可避の観測が流れる中、旅のお伴にグローバルミドルイーストをどうぞ。

【コンテンツ】
1.アラブの味方?イスラムの見方?
2.Mail from readers(読者からのお便り)

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1.アラブの味方?イスラムの見方?   by 新谷 恵司===============================================================

9月11日事件1周年を前に、エジプト、カタール、UAEを訪れ、多くのアラブ人、非アラブ・イスラム教徒と意見交換したり、地元の報道に接する機会がありました。簡略な図式でその報告を致します。

9月11日事件を起したとされるビンラディンと犯行グループ「アルカーイダ」について、多くのアラブ人は、ほとんどよいイメージを持っていませんでした。即ち、彼らがしでかしてくれた事件によって、アラブ・イスラム社会が大変な仕打ちに遭った。今もその影響に苦しんでいるし、そもそも、対テロ戦争というのは、アメリカがどんなに否定しようとも、イスラムに対する戦争そのものだ。宗教的過激主義、特に自分勝手な解釈でジハードを宣言してゲリラ活動をする輩は、イスラム教徒の中の1パーセントにも満たない。そんな彼らが真のイスラムを代表しているわけでも何でもないのに、敬虔なイスラム教徒とイスラム社会は彼らのせいで回復し難い損害を蒙った、というものです。

ここから、「9月11日事件陰謀説」が登場します。あの攻撃で、得をしたのは誰か。その勢力が真犯人ではないか。そもそも、あれだけのオペレーションを、アラブ人だけでできる筈がない。また、ユダヤ人はその朝出勤しなかったとか、CIAの報告が無視されたとか、いろいろな事実が明らかになっているではないか。米国が軍事作戦に出る前、必ず陰謀・策略を弄して正当な口実を作るのは歴史が証明している・・・。という論理で、多くの人が、その後シャロン首相が自らの「蛮行」(占領地再占領やジェニンでの虐殺)を「対テロ戦争の一環」と位置付けて米国の黙認を得ることに成功したではないか、と指摘する人が多いのには多少驚きました。

他方、湾岸で働くパキスタン人労働者などの意見を聞くと、「アメリカに一矢報いたイスラム教徒」として、ビンラディンを英雄視する考えが今も生きていました。私は事件発生直後のこのコラムで、ビンラディン=大石内蔵助説を披露しましたが、このような受け止め方は、広くイスラム教徒の心を捉えており、年月とともに語り継がれ、人々の心を捉える戯曲・小説にも発展していくものと考えています。

その観点において、9月5日と12日に分けて放映された、アルジャジーラ・チャンネルのドキュメンタリー・「トップ・シークレット」は、正しくアラブ版「忠臣蔵」を見るようでした。実行犯のひとりとされるモハンメド・アタの父親やハンブルグでの知人、先生の証言、そして、何よりこの攻撃計画の立案に中心的役割を果たしたとされるハーリド・シェイク・モハメド、そして、この放送の直後にパキスタン当局が逮捕に踏み切ったラムジィ・ビン・シェイバの特ダネ証言で構成された番組です。このような、「本当に何が起きたのか」「なぜ、イスラム主義者は自爆攻撃に向かうのか」を探る試みは、これからも続けられ、人々の関心を呼ぶことでしょう。

10日、私はトランジット先のバンコクで、日本のあるテレビ番組がアフガニスタン、パキスタンからのレポートをしているのを見ました。「アルカーイダ」の残党がパキスタンへ逃亡し、混乱が広がっている現状を取り扱っていました。私がこの番組について失望したのは、せっかく現地の人々に数多くインタビューしているにもかかわらず、その証言は、「アルカーイダの潜入」という点だけに絞って紹介されていたことです。上述したような、現地では支配的であるはずの意見、そしてなぜ、アルカーイダをかくまうのか、という意見が伝わってきませんでした。番組は更に、対テロ戦争開始以降にパキスタン国内で爆破事件などのテロが頻発し59名が死亡していると伝えました。確かにそのような事件で無辜の一般市民が犠牲になることは防がねばなりませんし、三千名にも及んだ同時テロ犠牲者を悼む気持ちを忘れるわけでもありませんが、そのようなテロを目にしてもなおアルカーイダをかくまうという庶民の気持ちの理由は何か、なぜ、パキスタン当局が積極的な摘発に踏み出せないのか、という「事情」には触れていませんでした。

なぜイスラム教徒が激怒しているのか、なぜ「テロ」が起きるのか、米軍のアフガニスタン攻撃で、どれだけ多くの無実の死者が出たのか、難民となり、今も生死の線上をさ迷っている人達がどれだけいるかを、同時に伝えて欲しかったと思いました。

その説明が常に欠けていればこそ、「イスラム」=気持ち悪い過激主義といったイメージは日本社会において拭い去られることがないのでしょう。私はよく「おまえはアラブ寄りだ、アラブの味方だ」と批判されますが、私は、伝えられていないことで、伝えなければと思うことについて語っているに過ぎません。

ここまで書いて、成田に着き、世界貿易センタービル(WTC)で亡くなった男性の、三番目の子を産んだ若い母に関するストーリーを読みました。強い同情の念にかられると共に、なぜ、テロや戦争が起きるのか。なぜ、無辜の命と家族の団欒が奪われてしまうのか・・・と、人間の業(ごう)ということについて、御仏の意思を問いました。

アラブ世界では、このようなテロ犠牲者に関する報道も行われており、それだけに「テロ万歳」「アメリカ人は死んでよし」と考える人は少数派です。しかしそれ以上にアラブの人々の心を捉えているのは、イスラエル占領軍の銃弾、ミサイルによって虫けら同然に殺されているパレスチナの同胞のこと、そして何ら有効な対策をとらないばかりか、そのような極悪行為を黙認しつつ、自らは最新兵器で民間人を殺し続ける米国の姿です。

原爆で亡くなった伸ちゃんやサダコと、このお母さん、そして名は知りませんが、多くのアフガニスタンのお母さんや子供達の悲しみと痛みは共通だ、というのが多くの良識あるアラブ人の認識です。

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2.Mail from readers(読者からのお便り)===============================================================

『始めまして 私は 真田 と申します。現在カタールに住んでいます。今月11日に配信登録をして今回No.24 を初めて受信しました。今、新谷さんと言う方が同じドーハにいらっしゃると言う事で強い親近感を覚えました。今日(8月27日)のガルフタイムズでもカタール政府はイラクへの戦争へは反対している旨の記事が載っていました。しかし実際ドーハ国際空港の軍用滑走路には米軍機が多数終結し、しょっちゅう離発着しています。西側外交筋によれば、同じアラブの同朋としてイラクへの戦争は反対と言うのがカタール国内の大方の世論だが、アメリカにも協力しなければならないらしくカタール政府は板ばさみにあっているようです。私はアラビア語もそんなに話せる訳ではありませんが、カタールで働いている事もあり、中東には大変関心があります。これからもたくさんの情報を配信してくださる事を期待しています。また無理かとは思いますが、若し新谷さんとドーハでお会いできれば幸いに存じます。』真田 栄光様より

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エールを頂き、さっそくドーハ・オフを「さし」で行いました。真田さんの日・カタール交流、日・アラブ交流に対するお気持ちに頭が下がりました。彼のようなひとりひとりのご努力が、中東は及ばず、世界における日本人の評価を高めていることと実感致しました。真田さん、あまり飲み過ぎないようご注意の上、是非、始められたアラビア語に熟達してカタール人、アラブ人の友人を沢山作って下さい!(jaber)===============================================================

<編集後記>サウジアラビアとイランの首脳(アブドラ国王代行とハタミ大統領)がイラクへの軍事攻撃反対で一致したというニュースの翌日に、サウド・サウジ外相の米国協力発言(安保理の決議が支持するなら米軍に協力する)と、情勢はめまぐるしく変わっています。一体何を信じたらよいのか・・・。次号ではイラクへの軍事攻撃についてとりあげます。ご期待下さい。(jaber)

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