米軍「傭兵化」で信用失墜のトランプ政権

◆政治も派兵もビジネス

今月に入り、米政権はシリア北部から一方的に撤退してトルコ軍の侵攻を容認し、その一方で、サウジアラビアには3千人を「増派」すると発表した。トランプ大統領は、同盟者として功績のあったクルド人民兵組織を文字通り見捨てるに当たって、「馬鹿げた戦争から手を引くのが自分の選 挙公約」とツイートしたが、その舌の根も乾かぬうちにサウジ には兵士を送り込む、そしてその理由は「彼らは金を払うと約束した」からだ、と得意気に述べたのであった。
その日たまたま、筆者は「ムルタジカ(傭兵)」という単語に通訳指導の現場で遭遇した。金のために戦う兵士は 、 祖国のために血を流す正 規軍兵士とは根本的に違う。中東でその言葉が発せられるとき、当然 侮蔑のニュアンスが籠っている、と解説したのだが、トラ ンプ大統領のしていることは、正に米軍の「傭兵化」に他ならない。 自由 と民主主義を守り 、世界の保安官としての役割を果たしているはずの米軍兵士を、大統領は算盤片手に売り捌いたのである。政治はビジネス、と錯覚しているらしい 。

◆対照的にロシアが発言力

トランプ政権の信用は、湾岸アラブ各国首脳の間でもどん底に落ちている。ムハンマド・サウジ皇太子は、ただでさえイランやイエメンからの攻撃に対する弱腰を国内 で批判されていると伝えられる。「米国に泣きついて、金 で兵隊を買ったのか」と非難されかねないトランプ大統領の暴露は 頭が痛いところだろう。
そういう中、先週はロシアのプーチン大統領がサウジとUAEを歴訪、両国で歓待を受けるとともに、主に経済分野での協力合意が大いに進展したと報じられている。トランプ政権は傭兵を提供することがあっても、いざという時には逃げる。そんな評価が固まりつつある中、イランとの軍 事衝突を避けるには、最も影響力のあるロシアとの関係強化こそ最強の一手、ということだろう。ロシアは、スンニ派アラブ=米国連合による中東支配にくさびを打ち込む形でシリアのアサド政権を死守したことで、中東全体で大きな発言力を持つに至った。すべては、トランプ政権の外交的失策のおかげだ 。

◆パクス・アメリカーナが終わると

「中東への派兵に大義などないが、算盤が合うなら派遣する 」。 このようにも取れるトランプ大統領の中東政策の変質は、もしかすると歴史的な必然なのかもしれない。自動車産業にその典型がみられるように、米国産業は中東における競争力を徐々に失った。唯一石油関連企業は健在だが、産業構造の変化で中東への関心を極端に失っている。米国は守護者としてこの地域に君臨し、その関係の下で民需・軍需両面のビジネスを展開してきた。しかし、トランプ大統領の近視眼的な商人外交が理解・支持されるほどに、米 国民の 中東観は変化しているのだろう。第二次大戦以降続いた米国と中東アラブ諸国の蜜月は、トランプ氏が退場してももはや復活しないのではないか。パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)の終わりが始まっている、と思えてならない。
それは、紛争、戦争が常態化することを意味する。イラクでは反政府デモが暴徒化しているが、イラク戦争からすでに 16 年が経過しても一向に改善しない生活水準への不満があるという。いつ、また戦乱に逆戻りしないとも限らない。同様に開始から 9年が経過したシリアとイエメンの内戦も、終わりは全く見えない。百年戦争が始まっているのではと危惧するのは私だけだろうか。

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