イラン革命防衛隊司令官暗殺が意味するもの

◆もっと早く除去すべきだった

トランプ大統領はイランの革命防衛隊コッズ部隊、ソレイマニ司令官の暗殺が命令通りに実行されたことを見届けるや、ツイッターで、「彼は何年も前に取り除かれているべきだった」と述べた。この空爆作戦、国内的に必要な手続き(「ギャングオブ8」の承認)を経ておらず、国際法上も突っ込みどころ満載だ。アラブの批評家に「自由世界のリーダーは、もはやマフィアのボスのレベルまで落ちた」と言われるのも無理はない。しかし気まぐれな「マフィアのボス」が呟いた、上述のソレイマニ氏についての認識は珍しく正鵠を射ていると思う。米国は、何年も前にソレイマニ氏ら民兵組織を潰しておくべきだったのだ。
ソレイマニ氏は、イランがイラク、シリアに介入し、現在ある「シーア派の弧」を形成する上で極めて重要な役割を果たした。560万人以上が国外へ難民として流出し、約1200万人が住居を追われたシリア。そこで数十万人の無辜の市民を直接殺害したのは、大半がアサド政権やロシア軍であったにせよ、それを可能にしたのはソレイマニ司令官の命を受けた、イランとイラクの民兵組織による支援であった。このことに留意しないと、この事件の評価、ひいては今後の中東情勢の展開を見誤ることになる。

◆一兵も失わず内部崩壊狙う

イラクという主権国家の領内でいきなり第三国の最高司令官を爆殺する。それは紛れもない戦争行為であって、米国は宣戦布告なしに事実上イランとの戦争に入ったのである。それは、何か月も、いやもしかしたら何年も前から計画されていたシナリオであろう。対IS(イスラム国)では共闘関係にあったことが、ソレイマニ氏を延命させた。しかし、ISが消えた今、その大きな戦略的変化に気づかず無防備にイラクで活動し続けた司令官は油断が過ぎたのだ。米軍のドローンが狙っているのは、ソレイマニ氏だけではなかった。翌日にも、イランの影響を強く受けている民兵組織が吹き飛ばされている。超タカ派のボルトン前大統領補佐官は暗殺成功を祝福して、「イランの体制変更の最初のステップとなることを期待」するとツイートしたが、米軍の狙いは、イラク戦争での敗走を教訓に、兵士は一人も失わず、戦わずして勝つ作戦だろう。敵が駆使するであろうドローン攻撃をこちらも多用するのだ。

◆戦争は起きないがテロの脅威増す

緊張は激化し、米軍需産業、とりわけ民間軍事会社は一層の活況を呈するが、熱い戦争は起こらない、というのが大方の識者の見方だ。米国にはその気がなく、逆に、圧力をかけ続けることでイランの内部崩壊を誘発させる戦略だ。一方、「復讐」を誓っているイランだが、テロを起こすことが出来ても、軍事的に勝ち目はないと見られる。逆に強く反応すればするほど、自分たちの終末を早めることにしかならないことをイラン神権政治は自覚している。司令官爆殺は、真珠湾攻撃の何倍も卑怯なやり方だが、そのことを国民に訴えたところで、ガソリン値上げに抗議しただけの市民を大量虐殺した革命防衛隊の首領の弔合戦に志願はしないだろう。湾岸富裕アラブ諸国はもちろん、完全に腰が引けている。アラムコの送油施設を襲われたサウジアラビアの対応の例を見るまでもなく。
これは、1979年のイラン・イスラム革命から続く神権政治の生存闘争だ。イラン政権は、一貫して周辺国家にシーア派民兵組織を育てて、テロを起こさせた。そのネットワークを使ったテロの脅威は大きく増すので、中東や欧米への渡航、滞在はより注意を払わなければならない。

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