フランスはイスラムと融和を

◆ニースの教会襲撃の犯人像

ブラヒム・アウィサウィという21歳の若者の目に、南仏ニースの華やかな街並みはどう映っていたのか。そして自分の母親のような無抵抗の老女の首をはね、他2人にも相次いで刃を向けるという凶行の際、どのような精神状態だったのか。

チュニジア南部の中心都市スファックスに身を寄せあって暮らしている彼の両親や兄弟姉妹、知人等が即座にメディア取材に応じたため、多くのことがわかった。彼は数年前に飲酒薬物などの非行があったが、その後、更生して礼拝もしていたという。外国語が話せず、もちろん海外に出たことなどない素朴な青年は、ある日突然家出した。イタリア最南端のランペドゥーザ島に違法移民の一団に紛れて渡り、そのおよそ40日後、ニースに着いた翌日にカテドラル(カトリック教会)を襲ったのだ。

残された持ち物の中に携帯電話2つ、犯行に使用したナイフ以外に2丁の刃物、コーランなどが発見された。犯行前日夜、彼は初めてスファックスの母親に電話し、教会の入り口の階段で寝ると伝えている。明らかに、彼を洗脳し邪悪な「聖戦」行為をけしかけた組織が存在する。言葉ができず、所持金もない難民が、上陸地点から千キロメートル以上も離れた犯行現場に自力でたどり着いたとは考えにくいからだ。仏捜査当局は11人を拘束し取り調べたが、全員釈放されたという。

◆「敵はイスラム過激派」

「敵は、政治的なイデオロギーたるイスラム過激派だ」。カステックス仏首相は7日、ニースで行われた追悼式でこう述べて、数年来、300人以上の命がテロ事件により失われている背景には、イスラム過激主義集団の暗躍があるとの認識を示した。

これは、その1週間前にマクロン大統領がカタールの衛星チャンネル「アルジャジーラ」に50分間、延々と述べた内容と一致している。つまり、フランスがイスラムを敵視しているというのは誤解で、問題なのはイスラム過激主義者だ。彼らは善良なイスラム教徒の敵ですらある、という論理だ。

しかし、どれほどマクロン大統領が熱意を込めて語ろうとも、過激主義に対する共闘の気運は高まらなかった。それは、預言者ムハンマドの風刺画を容認しているからである。

◆仏の「風刺画容認」はヘイトの煽動

「国是たる『ライシテ』(世俗主義、政教分離)を曲げられぬ。大統領の職にある者が『これはよいがこれはダメ』といった判断を風刺画に加えることは許されない」。マクロン氏はこのように主張したが、それは「『イラム恐怖症』という欧州社会に巣食う排外主義・ヘイトに投資しているに過ぎぬ」とアラブの識者は指摘する。各国は例外なく暴力的過激主義との戦いを余儀なくされている。ただ、それはイスラムだけの専売特許ではない。むしろ、イスラム恐怖症や「ゼノフォビア」といった排外主義、ヘイト、偏見に基づく暴力も存在するし、また、その反動としてイスラム過激主義が伸張することが問題なのである。

ニースの教会で最初に刺された老女を助けようとして深手を負った女性は教会となりのカフェに逃げ込んだ。彼女の勇気ある行動がなければ犠牲者はもっと増えていただろうと首相は讃えた。しかし、この女性を助けようとしたカフェ店主もまたチュニジア人であった事実に注目すべきである。

フランスを旅行すると至る所で北アフリカ出身のイスラム教徒のお世話になる。人口の9%、約600万人のイスラム・コミュニティは、今や仏社会と不可分であるのに、融和を図らず「風刺画を容認せよ」というのはいかにもまずい。それは、文明の価値の保護ではなく、ヘイトの扇動にすぎない。

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