中東コロナ対応の明暗と教訓

◆感染状況の4パターン

 中東・ 北アフリカ諸国の新型コロナウイルス感染事情を研究していると、国により状況が大きく異なることに驚愕する。同時に、そこにはいくつかの教訓が横たわっていることがわかる。

 それぞれの国の感染状況と政府の対応を分類すると、およそ四つのパターンに大別できる。①感染予防措置とワクチン接種により、ほぼ制圧に成功している国(イスラエル、モロッコ、アラブ首長国連邦=UAEなど)②感染拡大に歯止めがかからず、爆発的な感染が広がっている国(トルコ、イラク、イランなど)③経済活動への配慮から封鎖措置が不十分に終わり、結果として現在の世界的な感染急増に歩調を合わせている国(チュニジア、エジプトなど)④行政機構が破綻・混乱しており、そもそも検査機関がないため実態が分からず、医療資源にも事欠いている国(シリア、イエメンなど)。

◆モロッコの成功、優秀な官僚のおかげ

 飛び抜けたワクチン接種率を誇るイスラエルが注目されがちだが、同国の人口百万人比累積死者数は 693人で日本86人の約8倍。汚職で起訴されているネタニヤフ首相が、文字通り政治生命を懸けてワクチンまで「強奪」した結果、という皮肉な見方もできる。隣接するパレスチナやヨルダンではワクチンが行き渡らず、感染は拡大しているのだ。

 一方、モロッコの成功例は「刮目」(かつもく)される。中国製ワクチンを早期に導入し、4月末現在で440万人以上に接種を実施。その接種率はほとんどの欧州諸国を上回って世界10位だ。感染防止対策にも成功した結果、同国では第2波が起こらず、新規感染者数、死者数ともに低下傾向を続けている。この成功を支えたのは同国の優秀な官僚主導政治、と筆者は推測する。何をやっても後手に回る日本の官僚は、モロッコ官僚の 爪の垢を煎じて飲むべきだ。

 コロナ用酸素ボンベが引火という病院火災が報じられたイラクでは、政府が信用されておらず、SNSで流言が広がり易い。このため、ワクチン接種も、感染防止対策も進まず感染拡大に歯止めがかからない。政府方針に反対してモスクでの集団礼拝を奨励し、ワクチン接種を批判していたシーア派指導者が一転、接種を受ける映像を流したところ、接種希望者が急増したという笑えない現象も見られた。

◆ブレーキとアクセルに悩み

 予防措置で日常の経済活動が制約を受けると庶民が困窮し、社会不安が広がり兼ねないチュニジ
アやエジプトの為政者の悩みは、日本のそれと似ている。「 ブレーキ」と「 アクセル」の踏み具合に神経を使う。両国とも、世界的な流行と軌を一にして第3波の感染拡大に直面しているため、ラマダン月を契機に外出禁止や商店閉鎖等の措置を強化したが、遅きに失した感がある 。

 特にエジプトは隠れた感染大国だ。政府発表の数値は氷山の一角で実態を表していない。4月中旬、エジプト医師組合は、2週間で医師が50人も感染死したとして、医療関係者へのワクチン優先接種を訴えた。 政府は感染の実態には目をつむり、経済活動への制限をできるだけ抑える政策をとってきた。

 内戦の続くシリアでは、そもそも PCR 検査のできる機関が極めて限られているため、数字そのものが上がってこない。 難民キャンプ等で救済活動をする国連 NGO が警鐘を鳴らしている。 保健衛生状態が更にひどく、戦争の影響をより強く受けているイエメンも 事情は 同じだ。ただ、これらの国 の窮状を見ると、人の命を脅かす要因としては、新型コロナの順位はまだ相当下の方だ。

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