◆米外交に不満?
ロシアのウクライナ侵攻を非難した国連安全保障理事会決議案の採決でアラブ首長国連邦(UAE)は中国、インドと共に棄権した。米国等が主導し、80カ国を上回る加盟国が提案に加わっていたこの決議案は、いわば、「国際社会の決意」を示そうとしたものであった。それだけに、否決とい う結論に影響ないとはいえ、UAEの棄権は「反乱」と受け止められるほどの衝撃であった。
英紙フィナンシャル・タイムズは、「米国の外交政策に対する不満の表れ」と報じた。F35戦闘機の売却に応じない米国への面当てかというのだ。しかし、UAE要人の発信を総合すれば、確かに米国へのメッセージという側面が強いものの、「どちらか一方の側についたのでは問題の解決に役割を果たすことはできない」(ガルガッシュ外交顧問)との考え方で、「仲介者」となるべく棄権を選択したことが強調されている。「それは何ら驚きにあらず、これまで態度 表明を控えていたほとんどのアラブ諸国の尊敬と共感さえ獲得した 」(政権ご意見番のアブドルハーレク教授)というのだ。
◆中東各国、米に不信
確かに、棄権は「中立」である。UAEは元来西側の一員、米国のパートナーともいえる存在であるのだから、この先、米ロの対決で米国が勝利すれば、これに付き従えばよいだけのことである。しかし、重要な事実は、UAEや他の中東諸国をして将来を不安視させる要素があまりに多いことだ。バイデン米大統領は昨年12月に早々とウクライナ不介入の方針を公言し、その結果、ロシアの侵攻を招いた 責任がある。 欧州連合( EU も 北大西洋条約機構 NATOも、この決議案採決が行われた時までは、完全に腰が引けていた。
さらに重要なことは、米国は第二次世界大戦後、次々と大きな地域紛争の原因を作り、ベトナム、アフガニスタン、イラクで破壊の限りを尽くした揚げ句、結局逃げ帰ったことだ。「アフガンのタリバン化すら防げず、イランの核開発も容認するのか 」と、中東各国の米国への信頼は地に落ちている。
そして棄権から3日後、UAEの戦術の果実は早速収穫された。何とロシアが賛成したことにより、安保理決議2624号が成立し、イエメンからドローンと弾道ミサイルでUAEを攻撃しているフーシ派をテロ組織指定し、武器を禁輸することが決まったのだ。ロシアは、同国がシリアで共闘するイランが支援するフーシ派に不利益となる措置には、これまで後ろ向きであった。
◆「アジア諸国に配慮」
国連の非常任理事国は地域ブロックごとに改選される。このため、今回UAEは「アジア諸国に配慮した」とも言っている。つまり、一緒に 棄権した中国とインドと協調したという。ウクライナ問題の帰趨が、 東アジア情勢に影響することが必至と言われる今、このことは立ち止まって考える必要がある。 すなわち、米中が対決することになるとき、アジアやアラブの国々は、日米同盟側を支持しないかもしれない。
「 クアッド(日米豪印 の連携枠組み」の一員として同盟関係を強化しようとしているインドについては、何をかいわんや、である。ただ、伝統的な非同盟の旗手インドの参加で、中国に対する包囲網が一方的にほころびてしまうのか、それとも東洋の知恵(?)が加わってより耐性のある同盟関係とすることができるのかは未知数である。ここに今般のUAEの対応という一例を挙げたが、ウクライナ危機がもたらしているわが国安全保障上の教訓は限りなく大きい。