ロシアと中東がG7に逆襲?

◆中東の一部

 「中東」とは、狭義にはオリエント(東洋)の中でヨーロッパ側から見て「近東」の先、つまりアラビア半島辺りを指すが、イスラムという宗教的、文化的つながりの深い広大な地域(西はモロッコ、モーリタニアから東はパキスタン辺りまで)がその名でくくられる。最近それはMENA(中東北アフリカ)地域と呼ぶのが一般的だが、Greater Middle East(大中東)という呼称もある。

 では、その外周に位置するロシアはどうか。 地理的には、ヨーロッパ(西洋)から極東にまでまたが っているので、「ロシアはロシア」かもしれない。しかし、筆者は体感的に、ロシアも「中東の一部」と考えることにしている。

 エリカ・フランツは好著「権威主義」の中で、「ヨーロッパには権威主義体制はたった2カ国(ロシアとベラルーシ)しかない」と述べたが、権威主義体制になびく国民の精神性は、料理がうまいことと合わせて、中東世界の一大特性だ。中東ではイスラエルを除き、程度の差こそあれすべて権威主義国家である。

◆サウジとの関係は「快晴」

 以前、中東は「ウクライナ後」に備えている、という趣旨の見方を示したが、その後も中東諸国の対ロシア観は、ぶれていない。上述の通り、いわば「域内国」のロシアは、中東の「プーチン」にもなぞらえることのできるシリアの冷酷な独裁者アサド大統領の実質的な後ろ盾として君臨、ラタキアの軍港を支配している。それはロシアが崩壊でもすれば数年で終わるのかもしれないが、むしろ100年続くと思うのが、中東ウオッチャーの感覚だ。リビアではワグネル社の傭兵が今月にも新たな戦争を起こすだろう。

 メディアでは「米国一極体制が終わり、新たな冷戦時代が始まるのか。それはどのような世界か」といった議論が盛んだ。石油・天然ガスに関する制裁がロシア有利に働き、むしろエネルギー弱者である欧州側が苦しんでいる事情も冷徹に分析されている。サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は6月16日、サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムに電撃出席し、「ロシアとサウジの関係はリヤドの天気のように快晴」と述べた。

◆権威主義国家群が経済統合

 武力による一方的な主権と領土の一体性を侵害することは、明白な国際法違反である。それを肯定しない国はない。むしろ、イスラエルによる違法な占領が続き各種の領土紛争を抱える中東諸国は、その法理を中東でこそ実現してほしかった、という願いが強い。しかし同時に、それがお題目であり、力のバランスが崩れれば、容易に国が無くなり国際法は絵空事、という現実を知り尽くし、脅威を感じているということだろう。欧米は、どれだけの国際法違反をこの地域で犯してきたか。バイデン米大統領がサウジを訪問しても、実質的な支援のコミットメントがなければ、「どの口が言う?」である。

 「ロシアは中東?」という話題を取り上げたのは、中東をはじめ、アジア、アフリカ、中南米を覆い尽くす権威主義国家群の人口も、経済活動も、あらゆる指標が今は日本を含む民主主義国家群の総和を上回っているという事実があるからだ。その筆頭は中国であり、中東は、ロシアと中国が次の時代のリーダーになるのではないかと構えている。先進7カ国(G7)をはじめ西側の対ロ制裁は、ロシアとこれら権威主義国家群との経済統合を加速させる。ドルやユーロを使わない決済が当たり前になり、欧州と日本が中東からより高いエネルギーしか買えなくなるとすれば、それは「権威主義国家群の逆襲」である。       

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