アフリカで重要「人間の安全保障」

◆TICADに参加

 8月27~28日、第8回アフリカ開発会議TICAD8は北アフリカ・チュニジアの首都チュニスで開催された。私は、英、仏、スペイン、ポルトガル、アラビア語と日本語相互間の同時通訳を行う通訳者集団の一員として参加したが、これら全ての言葉はアラビア語も含めて、侵略者によってもたらされた外来言語である。

 共同議長のサイード・チュニジア大統領は、古代ローマ時代からチュニジア一帯が「イフリキヤ」と呼ばれていたため、後に「発見」された大陸全体がアフリカの名を冠さるようになったと述べたが、その話を訳しながら、この大陸が経験した長い文明の来し方と、近代の過酷な収奪の歴史に思いをはせた。

 1993年に「アフリカ開発東京会議」と、日本が「東京」の名を冠して主導したこの会議は、日本の対アフリカ外交、開発援助の屋台骨を支えてきた「哲学的」支柱である。わが国が経済大国ともてはやされた時代の遺物とやゆする向きもあるが、「手の汚れていない」日本がアフリカ各国と平等な目線に立って開発協力を進めていることを3年ごと(当初は5年ごと)に検証し、未来を計画する重要な機会でもある。

◆コロナ禍と経済混乱が大陸直撃

 アフリカ大陸の面積は約3037万平方キロメートルと、日本の80倍もの広さで、そこには未開発の天\然資源と人的資源が横たわっている。その開発が持続可能な開発目的に合致したものとなるか否かは、地球環境がここまで悪化してきている現在、先進国における取り組みにも増して、われわれ自身に振り掛かってくる問題だ。

 新型コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻による世界的な経済混乱という二重の災禍が、世界で最も脆弱な人々が幅広く分布するこの大陸を直撃している。また、前世紀末から今世紀初めにたきつけられたイスラム過激主義の思想と暴力は、大陸の奥深くに伝播し、人々の日常を脅かしている。

◆民間企業支援の資金投入

 その影響もあり、アフリカ各地では問題が山積している。この窮状をとらえ、ナイジェリア出身のモハメッド国連副事務総長は、「人間の安全保障」原理に基づいた開発努力が、かつてなく求められていると強調した。故緒方貞子氏も主唱したこのアプローチは、日本が民間企業の知見をベースに得意とする手法だ。グリーンビジネスや環境、医療、農業技術、情報通信、人材開発・産業育成といった分野は、日本の中小企業が強みを発揮する分野である。適切な枠組みと資金が用意されれば、民間ビジネスが人々の生活を救う。今次ビジネスフォーラムに参加した数十の企業だけでなく、関心を寄せる多くの中小およびスタートアップ企業にとって、活躍の場は無限に広がっている。

 岸田文雄首相は直前に新型コロナに罹患したため、リモート参加となった。「総理がリモートでできるなら、われわれ通訳者も自宅でやれるな」と遠いチュニジアを目指す機上で冗談を言ったものだが、情報通信技術の発達は、「遠いアフリカ」とのビジネスを進める上で、資金力やマンパワーの弱いスタートアップ企業であっても無理なくプロジェクトを進めることができる時代を保障している。首相が表明した3年間で300億ドル(約4兆円)の「資金投入」とは、その大部分が民間企業の活動を支えるものだから、それは返ってくるお金であり、かつ、経済的に波及して人々を幸せにする投資である。無駄遣いの多い政権だが、この「投資」に限っては、むしろもっと増やすべきだろうと思える。

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