「権威主義国家」大連合の時代

◆習主席サウジ訪問の衝撃

 歴史の舞台装置はある時ガラガラと音を立てて崩壊し、シーンを一変させる。国際政治に関わり始めて40年。筆者はベルリンの壁崩壊(1989年)、米国同時多発テロ(2001年)、アラブの春(2011年)を目撃し、今年は、ロシアのウクライナ侵攻に驚かされることとなった。これらの出来事はある日突然起きる。そしてその後はたまっていたマグマがせきを切って流れ出るように、その産物は旧来の事象と人間自体を容赦なく焼き尽くす。その時、我々は事件が偶然ではなく、起こるべくして起きた出来事であったことを知るのである。

 12月9日に中国の習近平国家主席がサウジアラビアで大歓迎され、湾岸協力会議(GCC)諸国のみならず、アラブ22カ国の首脳と一堂に会して関係強化を確認したことも一大事であった。それは、前年のアフガニスタン・カブール陥落と米軍の「敗走」、これに次ぐウクライナでの開戦という流れの帰結として理解すべき「必然」だ。中東の論客は、こぞって「多極化」「二極化」を口にし、力に陰りを見せた米国に代わって、アラブは中国との戦略的パートナーシップにかじを切るべきだと断言している。

◆中国が米国の代わり?

 中国は米国の代わりとなり得るか?習近平主席が1日で締結した35本、日本円にして総額4兆円を超える2国間、多国間の各種協力協定は、それが実行されようがされまいが、アラブ側、中国側双方の期待の大きさの証明だ。また中国が呼び掛けている人民元によるエネルギー取引が実行されると、国際決済通貨としての人民元の価値は大幅に高まり、それはサウジに冷たくした米国が受ける最大の懲罰である、という人もいる。湾岸諸国の為替相場は現状米ドルにくぎ付けされているが、人民元を含む通貨バスケットに対する変動相場制に移行する大改革が起きるだろう。

 中国の軍事力、特に世界的な経験に裏打ちされた展開力が米軍のそれとは比べ物にならないため、安全保障の面で中国は米国の役割を肩代わりできない、という主張がある。しかし、一方で、米軍が湾岸地域でしたことは何だったのか。テロやイランの脅威をあおるだけで、10年以上に及ぶイエメンでの戦争の間、イランに支援された勢力に攻撃され続けたサウジに有効な防衛手段を提供できなかった、という事実は、「問題を持ち込まない中国の方がよほどまし」という議論の有力な論拠である。

◆アラブ、中ロも「独裁者」仲間

 サウジのムハンマド皇太子の呼び掛けに呼応して集結したアラブ首脳は全員、いわば権威主義国家を代表する「独裁者」(ないしは強大な権力者)である。今般の会議で最も彼らの琴線に触れた習近平主席の言葉は「中国は内政に干渉せず、各国の主権を尊重している」であろう。人権擁護や民主化を掲げて政治に干渉してくる米国や一部の欧州諸国とは違うというわけだ。

 アラブの春を経験して、体制変革だけは絶対許してはならないアラブ各国の指導者にとって、これほど魅力的なパートナーはいない。天敵であるイスラム過激主義勢力は人権と民主主義を無視して圧しつぶした。その手法は中国も同じだ。また、その意味ではロシアも仲間である。権威主義国家の大連合は、数の上でも、経済規模の上でも、自由世界を上回ろうとしている。時代という名の回転劇場がぐるりと回り、民主主義の正義が当たり前だった世界が過去のものになろうとしている。

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