◆「ガザ戦争」はジェノサイド
イスラエルは、19世紀末に始まったシオニスト運動の結果建国された植民国家である。シオニズムとは、神がユダヤ人に約束した土地・シオンの丘に帰るとの趣旨で名づけられたユダヤ人のための政治運動だ。ナチスによる「ホロコースト」(約600万人が虐殺された)に同情した国連加盟国がパレスチナ分割決議を採択したため、イスラエルは1948年に建国を宣言、国際社会の仲間入りを果たした。
しかし、武力による襲撃と威嚇で住む土地と、生きる術を奪われ、難民となったパレスチナ人の抵抗は80年近くを経た現在も続いている。その結果が、開始から2年以上が経過し、停戦後もなおくすぶり続ける「ガザ戦争」だ。そしてそれが対等な当事者同士の「戦争」ではなく、占領国による、人道上あってはならないジェノサイド(集団虐殺)、民族浄化であることは、このコラムでこれまで繰り返し指摘してきた。国際機関・人権団体等による非難、糾弾は枚挙にいとまがない。
◆停戦合意後も空爆
イスラエルの「生存」は、「ハマス」を根絶やしにしない限り確保されないと、ネタニヤフ首相は戦闘(=民間人虐殺)の継続に固執し、停戦に合意した後も、これを一方的に破って1日で百人以上を虐殺する空爆を命じた。その主な理由は、ハマスが人質ではない別人の遺体を引き渡した、人質全員の遺体返還を意図的に遅らせている、というものであった。
が、虎の子の人質をハマスは大切にしていたのであって、彼らが死亡し、地中深く埋もれて掘り出せない状況になったのは、戦争犯罪人として逮捕状の出ている彼=ネタニヤフ首相=自身が無差別爆撃をさせたせいである。本稿執筆直前、イスラエル当局がパレスチナ人収監者の遺体50体をガザ当局に返還した、とのニュースを聞いたが、それは、イスラエルが今も約1万人のパレスチナ人「捕虜」(数千人の行政拘禁者を含む)を拘束しており、返還される遺体の数々に、拷問・虐待の痕が見られるという事実を想起するに十分であった。
◆ソーシャルメディアの普及、世界を覚醒
百歩譲って、世界が再び「反ユダヤ主義」の虜とならぬよう、イスラエルの自衛権を広範に解釈するとしても、現極右政権の行っている極端なアパルトヘイト(人種差別)政策、被占領民の人権蹂躙政策が受け入れられる余地はない。これまで、マスメディアの偏った報道、米国の強大な指導力等によって、この事実は隠蔽されてきたが、ソーシャルメディアの普及は世界を目覚めさせた。目覚めたのは、欧米の大学生だけではない。全世界のユダヤ人もまた、ガザ戦争反対のデモを起こし、イスラエル市民に至っては、将来を悲観して、国を去る(逆移民と呼ぶ)動きを見せている者もいるという。
「自分たちの父祖が集団虐殺の目に遭ったので、自分たちもまた集団虐殺を犯さない限り、生存を確保することはできない」。もし、イスラエルという、世界に指導的な英知、才能を誇る民族のつくった近代国家が、そのような原則に立ってこれからも人種差別と人権蹂躙の政策を続けるのであれば、国際社会の理解を得ることはないであろう。それは、植民国家イスラエルにとっては存亡の危機だ。 そのことを、世界の大半である「グローバル・サウス」、欧州諸国の大多数は理解しており、心あるユダヤ人の間ですら、共通の認識となっている。残っているのは、米国とこれに盲従する日本政府、強いて挙げれば、「反ユダヤ主義」の亡霊に怯えるドイツぐらいである。

