◆カタール、同胞団幹部を飼い殺し
友邦アラブ諸国の諫言をこれまで聞かなかったカタールが「改心」し、サウジアラビア国王の名代に付き添われる形で特使をエジプトに派遣、シシ大統領にわびを入れた(12月20日)。翌日、首長家有力者であるこの特使はアルジャジーラに異例の出演をし、(カタールは、エジプトのイスラム組織ムスリム同胞団の多くの幹部を受け入れているが)「政治活動を行わない限り、彼らは歓迎される」と述べた。クーデターでモルシ前大統領を投獄したシシ政権の打倒こそ現在の同胞団の活動目的であるから、事実上、カタールは彼らを飼い殺しにすると宣言したのだ。彼らの首領で、かつてアラブ世界に絶大なる人気を博したイスラム法学者ユースフ・カラダウィ師は、今や国際刑事警察機構(ICPO)のお尋ね者だ。一歩でもカタールを出れば逮捕の憂き目に遭う。
◆「イスラム国」も旗色悪い
「イスラム国」も有志連合による約1400回に及ぶ爆撃とクルド人民兵組織の敢闘の前に旗色が悪い。逃亡を企てた外国人聖戦士100人が仲間に処刑された、との報道が事実なら、イスラム国ももはや「神の国=ユートピア」たる仮面を脱ぎ捨てて、裏で支えてきたフセイン政権の残党が得意とする恐怖政治の本性が現れたのかもしれない。欧米では、カナダ、オーストラリア、フランスと相次いでイスラム過激派の関与が疑われるテロが発生したが、いずれも組織的なものではなく、一般犯罪歴や、精神的な病歴のある者がイスラム過激主義をいわば模倣したような事例であった。
◆サウジの姿勢が一転
今、「聖戦の大義」が見えない。ビンラディンのビデオメッセージに涙し、ツインタワーの崩壊映像を見て狂喜乱舞した人々の心が大きく揺れているのだ。今やイスラム教徒は仲間同士で殺しあっているだけではないか。聖戦士は、米やイスラエルを懲らしめるのではなく、同胞イスラム教徒の子どもを虐殺し、女性を陵虐しているのだ。パキスタン・タリバン運動やボコ・ハラムのように。そのような中で、スンニ派世界のリーダー、サウジアラビアがこれまでの曖昧な姿勢から一転、イスラム過激主義と戦う姿勢を鮮明にしたことは画期的な変革であり、成功を祈りたい。内務省が発表した135人の「テロリスト」の大半はいわゆる「思想犯」だった。SNSの交信記録を基に逮捕されたという。同国内の聖戦を美化する勢力はいまだ根強いだけに、その道のりは平坦でないにせよ、である。