エネルギー問題!

通訳者、翻訳者という仕事は時間を切り売りする商売で、自ら制約を課さない限り、プライベートな時間、ましてや読書や趣味にいそしむ時間というのも失くしてしまいがちです。特に、その元締めとしてお客様を相手にしておりますと、まったく自由になる時間がありません。
そんな立場を言い訳に、私はあまり読書を得意としない人間です。
ただ、そんな私も、今、常にかばんに忍ばせ、小脇に抱えて、数分の電車の中や人を待つ時間を活用してまで没頭している本があります。それがタイトルのエネルギー問題を概観した新刊です。
私は、エネルギーのことがほとんど何もわかっていませんでしたが、日経産業新聞にピエール・シャマスのエネルギー記事コラムの翻訳を投稿する仕事をしていました。それは私が通訳翻訳者、ビジネスマンとして独立するのと同時に始まり、つい最近まで約15年間も続きました。その間、私はつくづく自分と、そして日本の社会そのものが、エネルギーをめぐる事情に無知であり、かつ、もっとひどいことに、無関心でいてそれでよいという風潮があることに憤りを感じていました。そして、何とかエネルギーのことを多少なりとも勉強できる機会が持てないか、と考えていたところへ、勉強会に参加しないかとお誘いをいただいたのがかれこれ10年ぐらい前、日本のエネルギー業界や学界の現役・OBによる月1回の「エネルギー勉強会」の末席で貴重なお話を伺う機会に恵まれたのです。
「エネルギー問題!」は、そんな勉強会の重鎮、松井賢一さん(国際エネルギーアナリスト、(財)エネ研参与)が書き下ろし、ご親切にも小生のような若輩者にお贈り下さった本です。(NTT出版)
非常にわかりやすい文体で、著者いわく「ラジオ番組で語りかけるような」話は素人の私にもすんなりと入ってきます。それでいて、この本の扱っている基本知識は、本当に目から鱗がとれるようなことばかりです。逆説すれば、何でこんなことも知らないでエネルギーがどうのこうのと議論していたのだろう、と自分が恥ずかしくなることしきりです。この記事を読んでくださった方に、自信を持ってお勧めできる大著です。
エネルギーにはさまざまな切り口があり、さまざまなバックグラウンドの人が口を挟みます。それでいて、エネルギーは「みんなのもの」であり、人間誰ひとりとしてエネルギーなくして生きることができません。私は、中東政治の切り口からエネルギーを考えるようになりました。多くの人は、環境保護の必要性からエネルギーに口を出します。しかし、そういう私たちにとって決定的に欠けているのは、正しい科学技術知識に基づく体系的な視点だ、ということを教わりました。松井先生、本当に良い本をありがとうございました。

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