この風刺画は、先週alquds alarabi紙に掲載されていたもので、掘り出されたアラファト議長の骸骨が「そろそろエルサレムに移してもらってもいいんだが」と言っている。私は、1991年にアルジェで開かれたPNC(パレスチナ国民評議会)に日本政府オブザーバーとして出席し、ご本人が演説で「パレスチナ人は生きて住む家なく、死して埋葬される場所なし」と絶叫するのを聞いた。
その2年後、アラファト議長率いるPLOはチュニスにおける米国との公式対話などを経て、オスロ合意を達成、ガザ・エリコの先行統治(自治政府樹立)が始まった。「初めて領土を持ったパレスチナ人の国が独立する…」、それはそれは大きな期待に内外のパレスチナ人が包まれ、世界が注目した。しかし、5年を目処に合意するはずだった移行のための交渉はイスラエル側のサボタージュで遅々として進まず、しびれを切らせたパレスチナ住民の間に、武装闘争(「抵抗」と呼ぶ)への回帰を主張するハマスへの支持が広がった。ハマスとは、その正式名:イスラム抵抗運動の頭文字である。
2004年、アラファト議長は失意のうちに病死、パリから帰ってきた遺体はラーマッラの自治政府本部の庭先に埋葬された。この写真は2009年に訪問したときに撮ったものだ。
没後8周忌、オスロ合意から数えては何と19年が経過した。放射性物質ポロニウムで暗殺された疑いが濃いとのことで議長の遺骸が掘り返されているちょうどそのとき、ハマスの人質となったガザの子どもたちはイスラエル軍の爆撃で文字通り虐殺され、多数の「裏切り者」パレスチナ人はハマスの手によって「市内引きずり回しの刑」に処せられ、遺体は晒しものにされた。
私は、問題の所在を直視しない、ムードだけのばかげたパレスチナ支援運動を支持しない。理由は簡単で、武装闘争路線を放棄して、侵略されない安全な領土を勝ち取ることがパレスチナ人のためになるのに、その問題を解決せずして停戦だけしても、明日はまた死人が出るだけで、パレスチナ人の生活は決して向上しないからである。しかし、ともすればこの立場を「イスラエル支持」と取られることがある。
私がイスラエルを支持する理由は、特にない。しかし、敢えて支持する理由を挙げるなら、イスラエルの独立以降に同国で生まれた人はもう老人になっており、その孫も大きくなって生活しているということだ。第ニ、第三世代のイスラエル人は、悪意を持って移住してきた人たちではない。爺さんが泥棒した土地に住んでいるのだから出て行け、と言われたり、突然ミサイルが降ってきたら、自ら身の安全を守りたいと思うのは当然だろう。それに出ていくにしても、世界中どこも彼らには住み心地が悪い。この事情、実はパレスチナ人も同じことである。ならば、話し合って、お互いに折り合いをつける以外に解決方法がない。そのことを認め合い、合意をしたのだから、これを実現すればやがて平和はやってくる。しかし、安心できないなら、何百年経とうが交渉は成立しない。つまり、建設的な政治を妨げているのはハマスである。もちろん、その前に和平交渉をサボタージュしたイスラエルの歴代政権とアサド政権の方がより問題だとも言える。
問題だらけではあるが、まず、ガザ地区などという全く戦略的に無防備なところで武装する愚を直ちにやめてもらいたい。それはイスラエルを支持する理由にはならないが、そのように見えるなら、真の理由はそういうことである。
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