アルジャジーラ・モニタリング
<ニュース・ヘッドライン>
13日0600JST「ミッドナイト・ニュース」
■ イラン、「イスラエルがナタンズ核施設攻撃を首謀」と非難。イスラエルは、同攻撃へのモサドの関与に関する情報流出について調査。欧米当局者は「ウラン濃縮の主要機器が標的」と語る
■ 米、ナタンズ核施設攻撃での米の役割を一切否定。露は、「同攻撃がウィーン協議に影響することはない」と確認。EUは「核をめぐる争いの唯一の解決策は交渉であり、攻撃ではない」と強調
■ エジプト大統領、ルネッサンス・ダム問題でエチオピアに圧力をかけるよう露に要請。エチオピアは「エジプトが交渉におけるエチオピアの寛大さに対し頑固な姿勢を取っている」と非難
■ 露・ウクライナ間の緊張が高まり続ける中で、米とNATOは、露に軍の集結を止めるよう求める。露は、米の警告を拒否
<特定関心項目報道ぶり>
○ 日本関連報道
―特になし
○ イラン・イラク・シリア情勢
―イランは、「ナタンズの核施設攻撃の背後にイスラエルがいる」「これは核テロだ」と非難し、報復を誓った。イランのメディアは、情報機関筋の話として「同施設の電気系統に問題を引き起こした人物の身元を特定し、逮捕に向けた作業が進行している」と伝えた。
―ザリーフ・イラン外相は、上記攻撃を受けて、グテーレス国連事務総長に書簡を送り、その中で「イランの核開発計画はこの攻撃の後、重大な飛躍を遂げるだろう」と伝え、「核施設に対する意図的な攻撃は、放射能汚染を引き起こす可能性があり、核テロ・戦争犯罪とみなされる」と指摘した。また「米がこの攻撃の影響を回避したいと望むなら、経済テロを交渉の切り札とみなすことを止めるべきだ」とし、「米がすべての制裁を解除すれば、イランは核合意の義務履行の一部停止を撤回する」と述べた。
―ハティーブザーデ・イラン外務省報道官は、「イランは、核施設攻撃に対し、適切な時に適切な場所で報復する」と述べた。
―米NYタイムズ紙は、米とイスラエルの高官の話として、「イランのナタンズ核施設での出来事(攻撃)で、イスラエルが役割を演じた」「電気系統の故障が起きた原因は、地下にある数千の遠心分離機への電力供給を狙った爆発だった」と伝えた。同紙によると、高官らは「この攻撃について米政権が事前に通知を受けていたのか」「この攻撃は米国防長官のイスラエル訪問に合わせて実行されたのか」については明らかにしなかった。
―イスラエルのメディアが上記攻撃について報道したことを受けて、ガンツ・イスラエル国防相は、政府の司法顧問に「イランの核施設攻撃に関する情報の流出とイスラエルの報道管制政策への違反」についての調査を要請した。これより先に、イスラエル放送は、情報機関筋の話として「モサドがナタンズの核施設を狙ってサイバー攻撃し、同施設内の遠心分離機にも及ぶ大きな被害を与えた」「推定では、この被害によりイランのウラン濃縮能力が弱体化するものとみられる」「この作戦のタイミングは、偶発的なものではなかった」と伝えていた。
―ネタニヤフ・イスラエル首相は、同国を訪問した米国防長官との共同会見で「イスラエル首相としての自分の政策は明確だ。それは、イランに核兵器を保有させないというものだ」と強調した。
―米大統領府は、「米はこの件(上記イラン核施設攻撃)でいかなる役割も果たしていない」と強調。一方、EUは「これは破壊工作である可能性がある」として、「この出来事の状況を直ちに深く明らかにすべきだ」と指摘。またEUと露は、「イラン核合意をめぐるウィーン協議と米の同合意への復帰を目指した外交努力を台無しにせぬよう」改めて呼びかけた。
―リャブコフ露外務次官は、「イラン核合意をめぐる交渉は進められる。ナタンズ核施設攻撃のために懸念する必要はない」「制裁の問題とイランの核合意の義務順守への復帰に関する問題は、現在の作業の中に含まれている」と述べた。
元米大統領府グローバル・ エンゲージメント担当ディレクターのブレット・ブルーエン氏(ワシントン):イランはここ数年、戦略的な立場を維持できるようになり、(今回の攻撃を)拒絶し、厳しく攻撃的な語調を用いるだろう。しかし、実際の行動や措置に注目することが重要だ。「ウィーンで核合意をめぐる米・イランの間接協議が行われた」という進展が見られたことが、イランにこの交渉路線に残り、同合意の妨害を望む者たちの意向に屈することなく同合意への復帰を受け入れるよう促すものと思われる。イランは経済的な支援を緊急に必要としており、交渉プロセスは経済的圧力の軽減に道を開くものだ。従って、イランにとっては、今回の攻撃によって交渉プロセスから撤退するよりも、これに残る方がより利益が大きいはずだ。
―カタール外務省は、上記ナタンズ核施設への攻撃を「緊張を高め、地域の安全と安定に悪影響を及ぼす危険な破壊工作だ」として強く非難し、「イランの核開発計画をめぐる交渉路線を全面的に支持する」と表明した。
○ サウジ・イエメン・湾岸情勢
―イエメンのサリーア・ホウシー派軍事広報担当は、「サウジのジッダとジュベイルにあるサウジアラムコ社の製油所と、ハミース・ムシャイトとジーザーンにある『デリケートな軍事拠点』に対して、無人機17機と弾道ミサイル2発による攻撃を実施した」と発表した。これより先に、サウジのメディアは「サウジ主導の同盟軍が、ホウシー派がサウジ南部のジーザーンに向けて発射した弾道ミサイル1発と、同派がサウジに向けて飛ばした爆弾を積んだ無人機6機を迎撃・破壊した」と伝えていた。
○ エジプト情勢
―シーシー大統領は、カイロでラブロフ露外相と会談し、「ルネッサンス・ダムの貯水をめぐり拘束力のある合意に至らなければ、中東地域全体の安全と安定に悪影響を及ぼすだろう」と強調した。シュクリー外相は、「エチオピアに影響力を及ぼして一方的な措置を控えさせる力を有する露を頼りにしている」と述べた。露外相は、「同ダムの問題について、我々が重視しているのは、(エジプト・スーダン・エチオピアの)3か国の対話による3か国の利益を保証する形の包括的な解決だ」と述べ、当事諸国に「交渉にふさわしい状況を作り出すよう」呼びかけた。
―エチオピアは、「ルネッサンス・ダムの貯水をめぐるスーダンの懸念すべてに対処し、必要なすべてのデータを提供した」とし、「エジプトはエチオピアの寛大さ(同ダムの第2段階貯水に関するデータ交換の提案)を受け入れなかった」と指摘した。
○ 中東和平(占領地情勢)
―特になし
○ 国際テロ・過激主義情勢
―ブリンケン米国務長官とストルテンベルグNATO事務総長が電話会談し、アフガニスタンの和平の展望について協議した。同国務長官のブリュッセル訪問前の会談。
○ マグレブ情勢
―ドベイバ・リビア首相は12日、14閣僚からなる代表団を率いてアンカラを訪問し、エルドアン・トルコ大統領と電力協力などの分野の5つの協定(了解覚書)に署名した。トルコ大統領は「トルコとリビアが先に署名した海上国境画定協定(海上境界の画定に関する了解覚書)は、両国の国益の将来を保証した」と述べた。ドベイバ首相は、「リビア政府は、トルコとの間で結ばれた一連の協定、特に海上国境画定に関する協定は、正しい根拠に基づいたものだと強調する」と述べた。
○ トルコ情勢
―特になし
<その他の重要ニュース要旨>
―カタール、サウジアラビア、クウェートなど大半のアラブ・イスラム諸国で13日、コロナ禍で2度目となる断食月・ラマダーンが始まった。
―ソマリア議会は、ファルマジョ大統領の任期を2年延長することを承認した。この2年間に、直接選挙の実施に向けた準備を行う。
―米とNATOは、露に「ウクライナ国境沿いとクリミア半島への侵略的な軍の動員を止めるよう」求めた。露は、「米の露に対する威嚇的発言の繰り返しが、その発言の価値を下げている」と批判。
エリコの目
―ナタンズ核施設への破壊工作(解説)
ヌール・ニューズ(イランのネットニュースサイト)は、「核施設の停電を引き起こした人物が判明し、逮捕のための手続きが取られている」と報じた(アルアラブ紙)という。イスラエル・メディアは事件発生直後からイスラエル情報機関によるサイバー攻撃との見方を喧伝しているが、スパイによる破壊工作、という伝統的な手法がとられた可能性もある。核施設関連のシステムがインターネットに開かれているとは考えにくいからだ。
被害については、「ウラン濃縮作業を遅らせるほどに大きい」との見方が囁かれるものの、イラン側は「停電の結果故障が発生」以上の発表をしていない。爆発があった、との未確認情報もあるが、イラン側は濃縮施設に影響はなかった、としている。外相は「報復」を声高に叫んでいるが、これは、「核合意の復活に反対する勢力の失敗の結果、このテロがもたらされた」とするイランの立場とは矛盾している。報復すれば、それは反対勢力(イスラエル)の思う壺であるからだ。米国の核合意復帰、制裁解除が至上命題であるイランとしては、報復には慎重にならざるを得ない。他方、核合意再交渉を粉砕したいイスラエルにとっては、二の矢、三の矢があり得る。(J)
中東の新型コロナ動向
―国別感染状況(クウェート)
累計新規感染者数:247,094人(57,205人)、累積死者数:1,407人(326人)(カッコ内は人口百万人あたり)
11日の新規感染者数は1,390人、死者4人で年初以来、継続的に感染拡大が続き、過去最大値を更新するという第3波拡大局面にある。人口が少なくPCR検査数が多いため、感染者数が多く出るのであろうが、対百万人比は、イラン、イラクという感染大国の2倍を超える数値で、欧州各国の水準である。死者の割合はイラク(360人)と同じ。
<特記事項・気付きの点>
―特になし