アルジャジーラ・モニタリング
<ニュース・ヘッドライン>
23日0600JST「ミッドナイト・ニュース」
■ EU、ハマースを「対イスラエル紛争解決の一部」とみなし、対応へ門戸を開く姿勢を示唆。EU上級代表は「一部アラブ諸国のイスラエルとの国交正常化が『パレスチナ問題は終わった』との印象を与えた」と述べる
■ ガザ地区に日常生活が徐々に戻る中、国連は「同地区の水道施設の半分が損害を受けた」と発表。統計によると、住宅17,000軒に破壊の被害が及ぶ
■ ハマースのガザ地区指導者、イスラエル軍によるガザ地区攻撃で死亡したカッサーム部隊指揮官の弔問のため、同攻撃開始後初めて公に姿を現す
■ NY、ロンドン、パリ、ベルリン、シドニーで、イスラエルによるパレスチナ人攻撃を非難し、欧米によるイスラエル支援を止めるよう求めるデモ
■ エチオピア、ルネッサンス・ダム貯水の第2段階をあくまでも予定通りに行う構え。エジプトは「アフリカの不安定化」と警告。スーダンは「今月末にエジプトとの陸海合同軍事演習を実施する」と発表
<特定関心項目報道ぶり>
○ 日本関連報道
―特になし
○ イラン・イラク・シリア情勢
―特になし
○ サウジ・イエメン・湾岸情勢
―特になし
○ エジプト情勢
―デメケ・エチオピア副首相兼外相は、「ルネッサンス・ダムの貯水の第2段階は、スケジュールに従って決められた期日に行われる」とし、「エジプトとスーダンが同ダムの問題を国際問題化することでエチオピアに圧力をかけようとしている」「AUが『アフリカの問題はアフリカが解決する』という原則に基づいて主要な役割を果たし、3か国協議を成功させるものと信じている」と述べた。
―上記に先立ち、エジプトはエチオピアに対し「ルネッサンス・ダムの貯水の第2段階を行わないよう」警告し、「これは2015年にエジプト・スーダン・エチオピアの3か国が署名した『原則宣言』合意におけるエチオピアの約束に反するものだ」と指摘した。シュクリー外相は「エチオピアが包括的合意なしに同ダム貯水の第2段階を断行すれば、国際法違反の段階に突入することになる」とし、「エチオピアの単独での決定は、アフリカの安全と安定を揺るがす争いに繋がる」と警告した。
―スーダン軍は、「今月末にエジプト軍との合同訓練・軍事演習を実施する」と発表。同軍の声明によると、両国の陸海空軍が、スーダン西部のオムサヤラとオベイド、同国北部のメロウェと紅海で「ナイルの守護者1」と題した合同演習を実施する。
○ 中東和平(占領地情勢)
―ボレルEU上級代表は、「EUは、イスラエル・パレスチナ間の(紛争解決に向けた)政治路線の再開の可能性がない中で、ガザ地区復興への資金提供を続けることはできない」とし、「パレスチナ・イスラエル紛争の原因を考慮せずにいれば、新たな暴力が発生することになるだろう」と指摘した。また「アラブ数か国がイスラエルとの国交を正常化させたことが、『パレスチナ問題は終わった』との印象を与えた」とし、「2国家解決を基本とした恒久的な政治的解決のための真の交渉に戻るべきだ」と述べた。
―イスラエル・パレスチナ間の停戦を確実にするための集中的な外交努力が続けられる中、ある欧州高官は「現実的に、何らかの形でEUがハマースに対応(協力)する必要が出てくるだろう。同組織は、対イスラエル紛争解決の一端を担っているからだ」と述べた。また「EUは、カタールかエジプトを通じて、ハマースと間接的にやり取りすることが可能だ」としつつ、「仲介者を通じてハマースとやり取りするには、まずパレスチナ内部和解が実現することが条件となる」とした。今回の11日間の戦闘でパレスチナ諸派が実現した成果は、イスラエル軍との力のバランスを大きく変えるものだ。これがどのように政治的な利益へ転換されるかが注目される。
―ブリンケン米国務長官は、26,27の両日、イスラエルと西岸地区のパレスチナ当局を訪問する見通し。ガザ地区停戦を確固たるものにするための米の取り組みの一環。
―国連安保理は声明で、パレスチナ・イスラエル間の停戦発表を歓迎し、これを完全に順守するよう求めた。また、「パレスチナの民間人、特にガザ地区の民間人に人道支援を提供することが急務だ」と強調した。
―アッバース・パレスチナ大統領は、ラーマッラーの大統領府でエジプト治安代表団と会合し、イスラエルとの停戦を確実にする取り組みや、エルサレムと西岸各地でのイスラエルによる挑発行為の停止、ガザ地区復興のための地域的・国際的努力の調整、パレスチナ内部の問題解決について協議した。同代表団は21日、ガザでハマース指導部と会合し、停戦の状況やパレスチナ諸派の要求(エルサレムとアルアクサー・モスクでのイスラエルの挑発行為の停止が中心)について協議したほか、テルアビブでイスラエル政府高官らと会合した。
―タミーム・カタール首長は、アッバース大統領と電話会談し、停戦の最新状況やガザ地区復興の取り組みについて話し合った。同首長は、パレスチナが一致団結することの重要性を強調し、パレスチナ人とその大義を支持するカタールの立場を改めて示した。
―ハマースのシヌワール・ガザ地区政治局長(同地区のリーダー)が、今回のイスラエル軍による同地区攻撃開始後初めて公に姿を現した。同局長が姿を現したのは、同軍の攻撃で死亡したハマース軍事部門カッサーム部隊「ガザ旅団」司令官の自宅。ガンツ・イスラエル国防相は先に、同局長を「暗殺対象リストのトップにある人物だ」としていた。また、イスラエル軍は16日、同地区南部ハーンユーニスにある同局長の自宅を空爆していた。
―カッサーム部隊は、「改良型無人偵察機『ズワーリー』を導入した」と発表。この名称は、長年にわたり同部隊で活動したチュニジア人技師の名前からとられたもの。また、同部隊は「『エルサレムの剣』の戦闘で、地元製の航空機爆弾『シハーブ』を使用した」「ロケット弾『アイヤーシュ250』で、ガザ地区から220キロ離れているラモン空港を攻撃した」と明らかにした。一方、イスラム聖戦軍事部門のエルサレム部隊は「今回の戦闘中にロケット弾『カーシム』を導入した」とし、ロケット弾「バドル3」について「非常に破壊力が高く、弾頭の重量は350キログラム」との詳細を明らかにした。
―イスラエルTV・Ch12は、イスラエル軍の戦闘機パイロット「D」の話として「イスラエル軍がガザ地区の高層住宅(タワー)空爆という手段に出たのは、暴力や同地区のパレスチナ諸組織の成功に対する軍の失望・不満を発散させるためだった」と伝えた。「D」は、「パレスチナ諸派を攻撃することで、ロケット弾発射を止めることも、トンネルを破壊することもできなかった。そのため、タワーの空爆・破壊という手段に出た」と述べた。
―元イスラエル空軍パイロットのヨナタン・シャピラ氏は、アルジャジーラのニュースの中でのインタビューで「イスラエル政府は、パレスチナ人に対し民族虐殺と凶悪犯罪を行った」「イスラエル軍は民間人を殺害するテロ組織だ」と述べた。
―イスラエルのメディアでは、今回の対ガザ地区軍事行動の有効性を疑う議論が展開されており、大半が「同軍事行動は目的の完遂に失敗した」「パレスチナ諸派は回復することができる」との点で一致している。
―国連によると、今回の11日間に及んだイスラエル軍による集中攻撃で、ガザ地区の住宅・商用建物少なくとも17,000棟が被害を受けた。AFP通信は、同地区当局者の話として「住宅約2,000軒が完全に破壊された」と伝えた。また国連によると、同地区の水道システムの半分が損害を受け、約80万人への飲料水の定常供給が途絶えた。更に、53の教育機関と6つの病院、11の医療センターが空爆で被害を受けた。工業部門の損害は約4千万ドル、電力部門の損害は2,200万ドル超と推定されている。
―ガザ地区の海上警察は、「イスラエル軍による同地区攻撃の激化により停止されていた海上での漁業が再開された」と発表。漁業は同地区の主要経済部門の1つ。
―イスラエル当局が東エルサレムのシェイク・ジャッラーハ地区のパレスチナ住民の立ち退きを決定したことが、同市内やパレスチナ各地での抗議行動を引き起こし、これが今回のイスラエル・パレスチナ間の武力衝突の原因となった。イスラエル軍によるガザ地区攻撃は停止されたが、イスラエル治安部隊によるシェイク・ジャッラーハ地区住民への威嚇や嫌がらせは今も続いている。また、住民や連帯者らによる抗議行動も続き、イスラエルの部隊の弾圧を受けている。
―NY、ロンドン、パリ、ベルリン、トロント、シドニー、ベイルートなどでパレスチナ人への連帯を示すデモが行われ、参加者らはパレスチナ人に対するイスラエルの暴力行為を非難し、欧米によるイスラエル支援を止めるよう求めるスローガンを掲げた。
○ 国際テロ・過激主義情勢
―特になし
○ マグレブ情勢
―特になし
○ トルコ情勢
―特になし
<その他の重要ニュース要旨>
―特になし
エリコの目
―「イスラエルは国際世論がひっくり返らないか注意した方が良い。」英ガーディアン紙は、ジョナサン・フリードランド記者の論考を掲載、2週間のガザ攻撃停戦の後は、いつものように世界はパレスチナ人を忘れるのだろうか?この紛争が従来型の民族間の争いとしてではなく、#FreePalestineというハシュタグが#BlackLivesMatterのような重みを持つ、人種差別の問題として捉えられ、スポーツ選手や著名人のようなインフルエンサーによって新たな命を吹き込まれる可能性がある、等と報じた。(ラアイ・アルヨウム紙)
ガーディアン紙の原記事:
中東の新型コロナ動向
―エジプトに中国から新型コロナ・ワクチン「シノバック」の現地生産用原料約1400リットルが到着した。エジプト「ヴァクセラ」社と「シノバック」社の合弁企業が製品化を急ぐ。エジプトは中国と2国間協定でワクチン製造に関する技術移転を合意しており、100%メイド・イン・エジプトのワクチン製造国となることを目指している。同日、シノファーム社のワクチン50万回分も引き渡された。(アッシャルク・アルアウサト紙)
―ムハンマド6世大学の先端科学発明研究所(MAScIR、モロッコ)は、約20秒間で新型コロナウイルスの感染を判定する装置を開発し、モロッコや諸外国の研究機関の認証を得た。同研究所では、この装置の使用が汎用化されることによって、国民生活及び観光産業が一日も早く正常化することを願っている。(スカイニューズ・アラビア)
<特記事項・気付きの点>
―イスラエル・パレスチナ間の停戦発効を受けて、特別連続報道体制を止め、定時のニュースを報道する体制に戻ったが、「ミッドナイト・ニュース」はなし。依然としてイスラエル・パレスチナ情勢を中心に報道。
―「ガザ停戦」が発効しましたが、これまでのレポートにあるように根本的な問題は何一つ解決していません。SNSの時代に、米国の政策が変化する可能性があるのか?という点が注目されています。/中東の新型コロナ動向コーナー、如何でしょうか。日本では報道されない現地情報を拾って参りました。エジプトやモロッコのニュースを読むにつけ、わが国の停滞ぶりが気懸りです。かつて「英国病」という言葉がありましたが、「日本病」はそれ以上に深刻だと思います。そのような社会を作った大人のひとりとして、若者に対し申し訳ないと思います。(J)