アルジャジーラ・モニタリング
<ニュース・ヘッドライン>
20日0600JST「ミッドナイト・ニュース」
■ イラン大統領選、ライシ師が得票率62%で勝利。イスラエルは同師を「過激派」と評し、「核開発計画に最も熱心に取り組んでいる」と指摘
■ イラン外相、「8月までに核計画をめぐる合意に至ることは可能」との見方を示す。EUは、「ウィーン協議の参加者らが20日に会合し、米の核合意復帰について協議する」と発表
■ リビアのハフタル派部隊、アルジェリア国境の検問所を制圧。昨年10月の停戦合意後初の軍事行動
<特定関心項目報道ぶり>
○ 日本関連報道
―特になし
○ イラン・イラク・シリア情勢
―イラン大統領選挙で保守派のライシ候補が得票率62%で勝利した。次点のレザイ候補(保守派)の得票率は11%だった。改革・穏健派のヘンマティ候補は3位。投票率は48%だった。勝利発表後、ライシ師はロウハニ大統領の訪問を受け、「現政府の経験を生かしていく」と述べた。ハメネイ最高指導者は、「イラン国民こそが選挙での勝者だ。彼らが、敵が仕掛けてきた悪意ある陰謀やメディア戦争を失敗させたからだ」と述べた。
―イラン次期大統領に選出されたライシ師は声明を出し、「他の候補に投票した人々や何らかの理由で選挙に参加しなかった人々も含む全イラン国民に奉仕する全イラン国民の大統領となる」とし、「汚職対策や正義を広めることに重点を置く効果的な革命政府を樹立する」と表明した。また、大統領選から撤退した候補や最後まで争った候補らに謝意を表し、「国家運営において彼らの意見を生かしていく」と述べた。
テヘラン支局長のレポート:ライシ師は外交政策での「変革」を約束しているが、イランの外交には「可変のもの」と「不変のもの」のがある。ライシ師は「可変のもの」の中で変革を行うことになる。同師は選挙戦中に「地域諸国に対して門戸を開く」と約束した。特に、イランの地域政策に懸念を有するサウジなどの近隣アラブ諸国に対してだ。ただし、同じ地域政策でも、対イスラエルに関しては同師は強硬な立場を取っており、「変革」も「より強硬な方向」へと向かうだろう。もう1つの重い課題である核合意に関しては、同師は「同合意に賛成、ウィーン協議に賛成、同合意の復活に賛成」と明言しているが、国内での同合意の実施面や欧米への対処に変化が生じる可能性がある。同合意は穏健派政府が作ったものだからだ。そのため懸念を口にする人もいるが、交渉責任者のアラグチ外務次官は2日前、「核協議については、ライシ師の大統領就任による心配はない」と明言した。つまり、イランにとって核協議は体制や国家安全保障最高評議会と関係する「不変のもの」なのだ。体制(のトップ)も同評議会もウィーン協議と核合意の復活を望んでいる。ただし、現場での実際的な実施手順は、ライシ新大統領のチームが決めることになる。
―イラン大統領選挙でのライシ師の勝利への各国の反応。
米国務省、「イラン国民が自由で公正な選挙プロセス(で自分たちのリーダーを選ぶ権利)を否定されたことを残念に思う」と発表/タミーム・カタール首長、ナッワーフ・クウェート首長、ハイサム・オマーン国王、UAE、同師の勝利を祝福/カージミー・イラク首相、ライシ師と電話会談し、経済・治安・テロ対策を始めとする様々な分野での両国間関係の強化の重要性について協議/エルドアン・トルコ大統領、同師の勝利を祝福し、「次段階での両国の緊密な協力を期待する」とのメッセージを送る/ラピド・イスラエル新外相、「同師は核開発計画に最も熱心に取り組んでいる指導者だ」「同師はイランの虐殺者として知られる過激派で、イラン人数千人殺害の責任者だ」とツイート。
―ザリーフ・イラン外相は、いくつかの障害があることを認めつつ、「我々は、8月の現政府の任期終了までに核合意の復活をめぐる合意に至れるものと思われる」とし、「ウィーンでの協議は良好に進んでおり、最終段階に至っている」と述べた。
―EUは、声明で「イラン核合意の関係諸国が20日、ウィーンで外務次官級の会合を開く」と発表し、「この会合は、予想される米の核合意への復帰と、同合意の効果的かつ完全な実施を保証する手段について協議することを目的としたものだ」と明らかにした。外交筋によると、この会合の後、各国代表団は協議のため自国へ戻り、第7回協議に備えることになる。
―NYタイムズ紙は、「イランとの核合意をめぐるウィーン協議に参加しているバイデン米大統領の大物側近らは、イランとの合意に至る時が来たと確信している」と伝えた。同紙によると、側近らは「ライシ新大統領が就任するまでの6週間が最終合意に至る唯一無二の機会となる」と見ている。また、米・イラン双方の当局者らは「ハメネイ最高指導者は制裁解除のために核合意の復活を望んでいる」としている。米とイランでは、「ハメネイ師が大統領選と核協議の舞台を管理していた。同師は制裁解除の希望を捨てたくないと思っている」との見方がされている。更に同紙は「イラン側は、将来のいかなる米政府もトランプ米大統領が行ったように合意を破棄することはできないという書面での約束を求めている」と報じた。
―アウン・レバノン大統領は、ベイルートでボレルEU上級代表と会談し、「新内閣の組閣を妨げる国内外の障害が取り除かれた後、同内閣が即座に突入する主要な戦いは改革だ」「レバノンの状況の特殊性から、行政機関の構成においては現実的な協定型のアプローチが必要だ」述べた。一方、ボレル氏は「レバノン新内閣をできる限り迅速に組閣するよう」呼びかけ、「EUではレバノンの政治指導者らに制裁を科すことが提案されているが、その実施を余儀なくされる事態にならないことを望む」と述べた。また同氏は、会談後の会見で「レバノン危機は国内問題であり、その原因は、国家運営の悪さにある」と指摘した。
○ サウジ・イエメン・湾岸情勢
―サウジ率いる同盟軍は、「サウジ国内の民間人や民間施設を標的にイエメンのホウシー派が飛ばした無人機爆弾を撃墜・破壊した際のもの」とする映像を公開し、「19日に同派の無人機17機を破壊した」と発表した。
―イエメン軍は、「マアリブ県西部サルワーフの複数戦線での激戦でホウシー派の戦闘員少なくとも30人が死亡した」と発表した。第3軍管区広報室によると、軍は同派の無人機4機を撃墜した。軍側の損害については触れていない。軍事関係筋によると、19日朝に同派がマアリブ市内に向けて弾道ミサイル2発を発射したのと時を同じくして起きた戦闘で、軍の兵士6人が死亡した。
―米国防総省によると、オースティン国防長官は米中央軍司令官に対し「今夏中に中東地域から防空システムや兵員・軍装備品を撤収させるよう」命じた。防空システムの一部はメンテナンスのため米国内へ送られ、他の一部は世界の他の地域に再配備される。同省は「撤収作業はパートナー諸国と調整して行われる」としている。一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米当局者の話として「撤収となるのはヨルダン、サウジ、イラク、クウェートにある防空システムだ」と伝えた。
○ エジプト情勢
―特になし
○ 中東和平(占領地情勢)
―特になし
○ 国際テロ・過激主義情勢
―アフガニスタンでタリバンによる攻撃が激化し治安状況が悪化していることを受け、ガニ大統領は、国防相と内相、軍司令官を解任した。ハーリド国防相の後任には、ビスミッラー・ムハンマディ将軍が指名された。同将軍は、1980年代のソ連のアフガン侵攻時にマスード司令官の下で戦い、90年代半ばにタリバンがカブールを制圧した際にはタリバンと戦った指揮官で、前カルザイ政権下では国防相、内相、軍司令官を務めた人物。新内相には、アブドルサッタール・ミルザクワル将軍が指名された。
○ マグレブ情勢
―リビアのハフタル元少将派部隊は、リビア南西部アルジェリア国境のイセイイン(エッセン)検問所を制圧し、この地域を「軍事区域にする」と発表した。同部隊の第128旅団司令部は、同地域に部隊が展開する様子を撮影した画像を公開し、「援軍部隊が同地域に到着した」と明らかにした。これは、同派部隊がリビア南部で開始した「アフリカ人傭兵のテロ集団を一掃する」作戦の一環とされ、昨年10月に停戦合意が結ばれた後、初めての軍事行動。これを受けて、トリポリの大統領評議会は「軍最高司令官」という立場から、「同評議会との調整や同評議会の直接の命令なしに軍事車列を動かしたり武器弾薬を移送することを禁じる」との通達を出した。数日後には、リビアの停戦定着に向けた第2回ベルリン会議が開かれる予定。
○ トルコ情勢
―特になし
<その他の重要ニュース要旨>
―特になし
エリコの目
―イスラエルのラピド次期首相(現外相)は「ライシ師がイラン大統領に選出されたことで、同国の核開発計画を即時に停止させなければならないという決意が強化された」とツイートした。イスラエルTV12チャンネルは、同師の大統領就任により「イスラエルはイラン核施設への軍事攻撃計画を再始動する必要がある」と軍事当局が考えていると報じた。(アルアラビー・アルジャディド)
中東の新型コロナ動向
―世銀は17日、イエメンにおける新型コロナ・ワクチン接種の実施に必要な費用として2000万ドルを追加支援することを決定した。これにより世銀によるイエメンのワクチン接種キャンペーンへの支援額合計は4700万ドルとなった。イエメンでは現状約16万人が接種を受けているが、フーシ派がワクチンの受け取りを拒否するなど、接種の拡大には課題も多い。(アッシャルク・アルアウサト紙)
<特記事項・気付きの点>
―特になし