アルジャジーラ・モニタリング
<ニュース・ヘッドライン>
17日0600JST「ミッドナイト・ニュース」
■ 米大統領、米軍のアフガン撤退を急いだ自身の決定を擁護し、「ガニ大統領は、タリバンと和解するようにという米の助言を拒否し、戦闘という選択肢に固執した」と述べる
■ 国連安保理、アフガニスタンでのあらゆる戦闘行為の即時停止と、全当事者を含む統一政府の樹立に向けた協議の開始を呼びかけ
■ タリバン、カブール市内全体に組織要員を配備したと確認。ヘクマティヤル、カルザイ、アブドラの各氏を含む代表団が、タリバン代表団との会合のためドーハへ向かう
■ カブール空港で緊張続く。滑走路に人が殺到したことによる死者が10人に上る。米国防総省は「米軍に対する発砲に反撃し、武装者2人を殺害した」と発表
<特定関心項目報道ぶり>
○ 日本関連報道
―特になし
○ イラン・イラク・シリア情勢
―アウン・レバノン大統領は、「一部妨害があるものの、向こう数日中に新内閣が組閣されることにより、レバノンが現在直面している危機に歯止めがかかることを期待する」と述べた。一方、新内閣の組閣を委任されているミーカーティ次期首相は、同大統領との会談後「新内閣組閣の機会は、組閣を断念する可能性よりも大きい」「求められているのは、国が直面する苦難や災難に立ち向かうために、できる限り早急に組閣をすることだ」と述べた。
○ サウジ・イエメン・湾岸情勢
―AP通信は、監禁されていた中国人女性の話として、「中国はドバイに秘密の刑務所を有している」と伝えた。この女性は、「自分はドバイのホテル滞在中に拉致され、中国が管理する秘密の収容所に8日間監禁された」「他にウイグル族の2人が監禁されているのを見聞きした」「自分は中国語で尋問・脅迫され、(中国の反体制派とされている)婚約者をハラスメントで訴える法的文書への署名を強要された」「6月8日に釈放され、オランダに亡命申請している」と証言した。中国外務省は、この話を否定。ドバイ当局はコメントを控えた。
○ エジプト情勢
―特になし
○ 中東和平(占領地情勢)
―イスラエル軍が指名手配中の人物を拘束するために西岸地区北部のジェニンと同難民キャンプに突入しようとした際に、これを阻止しようとしたパレスチナ人の若者の一団との衝突となり、パレスチナ人の若者4人が死亡した。パレスチナ保健省によると2人の遺体が病院に搬送されたが、イスラエルの消息筋によると残る2人の遺体はイスラエル軍側に収容された。
○ 国際テロ・過激主義情勢
―アフガニスタンの首都カブールでは、タリバンによる制圧の翌日、市民の間に恐怖が広がっている。市内の通りにはタリバンの戦闘員多数が展開している。タリバンは、「首都の治安を管理し、治安悪化の兆候に対処すべく取り組んでいる」とし、一部の戦闘員が民家に押し入ったとの報告を受けて、「指示に反した戦闘員は処罰する」と警告した。
―タリバンは、「カブール市内全体に情報網を敷いた」と発表。タリバンのマダニー・カブール情報機関責任者は、ツイッターに投稿した動画で「同市内にあるいくつかの部分的な課題を克服する計画を立案した」「泥棒や強盗・略奪を行った者すべてを拘束した」と述べた。
―アフガニスタンの消息筋によると、国外に脱出しようとして数千人が押し寄せているカブール空港での混乱による死者は10人に上った。米国人らの退避活動にあたっている米軍を始めとする外国軍がいるにもかかわらず、人々は空港内になだれ込んだ。空港周辺では激しい発砲があった。米国防総省は、「同空港内での2件の発砲に米軍が対応し、武装者2人が死亡した」「米兵1人が負傷したとの情報がある」「今後数日中に同空港内の米軍は6千人となる」「同空港の秩序が回復され安全が確保され次第、民間機・軍用機の運航が再開される」と発表した。
―シャーヒーン・タリバン広報担当は、米MSNBCのインタビューで「タリバンは、アフガニスタンにいる米国人を標的にしないとコミットしている」「タリバンはドーハ合意に従ってこの約束を守り、それを続けている」と述べた。
―アフガニスタンのヘクマティヤル「イスラム党」党首は、「カルザイ前大統領、アブドラ国家和解高等評議会議長と共に、17日にドーハへ向かい、タリバン代表団と会合する」「権力移譲の準備とできる限り早急の新政府の樹立について協議するためだ」と発表した。また「タリバンの社会への対応とカブール入りの方法は、前向きな兆候を示すものだ。国は平穏になり、今日のところ懸念を呼ぶ状況は聞かれない」と述べた。
―上記より先に、カルザイ前大統領は、アブドラ国家和解高等評議会議長との会談後「タリバン指導部との間の連絡チャンネルが開かれた。これが実り多いものとなることを期待する」「同議長と共に、タリバン指導部とアフガニスタンの将来の命運にかかわる課題について協議した」と明らかにしていた。一方、アブドラ議長は「アフガニスタンは困難な時にある。最近の変化が人々の生活に影響した」「全アフガン指導者が危機解決で合意することを期待する」と述べた。
―旧タリバン政権で駐パキスタン大使を務めたアブドルサラーム・ザイーフ氏は、アルジャジーラのインタビューで「アフガニスタンでの次のステップは、平和の基盤を構築することだ」「それに続くのは、次期大統領の選出と権限の移譲に向けて、野党やカブールの政治家らとの対話を再開することだ」との見方を示した。
―バイデン米大統領は、アフガニスタン情勢に関する米国民に向けたスピーチで、「アフガニスタンの情勢は、米政権が予想していたよりも早く崩壊に至った」と認めた上で、「その責任は、抵抗なしにすぐに降伏したアフガン政府と政府軍にある」とし、「アフガン政府は、タリバンと和解すべきだという米の助言を拒否した」「この1週間の情勢展開は、米のアフガニスタンでの軍事介入を終了するという決定が正しかったことを立証した」と述べた。また、「米は過去の過ちを繰り返さず、米の利益とならない内戦には関与しない」とし、「自分は米国民への約束を守り、アフガニスタンから撤退して、米国の近代史で最も長い戦争を終わらせた」と強調した。更に「現在の優先事項は、米国人と同盟者、アフガン人協力者の退避を続けることだ」とし、タリバンに退避活動を妨害しないよう警告した。
ワシントン特派員のレポート:(上記の)バイデン大統領のスピーチの内容は次のように要約することができる。まず、大統領は「自分は選挙公約を守り実行している誠実な大統領だ」として、「米世論は自分に味方している」と認識している。次に、大統領は(アフガン撤退の決定に対する)批判にもかかわらず、現在の立場から全く譲歩する用意がないことを示した。また、「大統領就任以降、アフガン国民・ガニ政権に、汚職を止めるよう求めて来た」と明らかにし、「アフガン政府軍が戦わなかったのは、指導者らが腐敗していたからだ」「米の役割は国家の建設ではなく、テロとの戦いだった」と語った。大統領は、タリバンを「テロリスト」とは評さなかった。つまり現在の米の戦略的考え方は、「タリバンはもはや戦うべき敵ではなく、ドーハ合意路線が何らかの成果をもたらすだろう」「真の敵は露と中国だ」というものだ。そのためアフガニスタンでの「弱い敵(タリバン)」に集中させていた軍事・情報・安全保障の負担を脱して、米の情報・戦略・軍事力をこれらの(真の)敵に集中させようとしているのだ。
―サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「タリバンがアフガニスタン国内でアルカーイダに安全な避難所を提供すれば、タリバンを罰する。タリバンは、その代償を払うことになるだろう」と述べた。
―メルケル独首相は、タリバンがアフガニスタン全土を掌握したことを「驚くべき事であり、アフガン国民にとっては非常に厳しく悲惨で恐ろしい展開だ」と評し、「米とNATOの指揮下での20年にわたった戦いにもかかわらず、求められた成果は上げられなかった」と述べた。
―マクロン仏大統領は、アフガニスタンに関する演説で「アフガニスタンをかつてのようなテロの拠点に戻してはならない」「国連安保理は、同国の新たな状況に対処し、国際的安定を維持するために、統一された責任ある回答をすべきだ」「仏は他の欧州諸国や同盟諸国と調整し、あらゆる形のテロとの戦いを続ける取り組みを率先して行うつもりだ」と述べた。
―国連安保理は、「アフガニスタンでの暴力行為を即時停止し、治安と社会・憲法秩序を回復して、権力をめぐる問題の解決に向けて緊急協議を行うよう」呼びかけ、「団結した形での包括的協議を通じた新政府の樹立と女性の平等かつ完全な参加の保証」を促した。また、同国での国際人道法違反や人権侵害に対して深い懸念を示した。
―中国は、アフガニスタン問題についてイランと協議し、「タリバンと友好関係を結ぶ用意がある」と表明した。一方、イランは「アフガニスタンでの米の軍事的失敗は、恒久的和平を実現する機会だ」との見方を示した。
―タリバンによるアフガニスタン全土制圧に対するアラブの反応は以下の通り。
サウジ外務省は声明で、タリバンとその他の全関係者に「人々の生命と財産を保護するよう」呼びかけ、「サウジはアフガン国民の側に立ち、同国民自身の選択を支持する」と確認/ハニーヤ・ハマース政治局長は、バラダル・タリバン政治事務所代表に電話し、「アフガン領土から米の占領を排除したこと」を祝福し、「アフガニスタンの統一と繁栄を願う」と伝えた/イスラム聖戦は、アフガン国民に「アフガン領土の米による占領からの解放」を祝福し、「同国と国民に安全と平和を願う」と発表/ムハンマド・カタール副首相兼外相は、「カタールは、アフガニスタンで平和的に権力移譲プロセスが行われるよう尽力している」と発言。
○ マグレブ情勢
―特になし
○ トルコ情勢
―特になし
<その他の重要ニュース要旨>
―特になし
エリコの目
―「8万人のタリバンが、米国が1千億ドルを費やした30万人の政府軍を打ち破るとはどういうことか?」英ガーディアン紙が論評している。「それは2つの軍隊の話。一方は貧弱な装備だが、士気が高い。もう一方はよい装備だがNATOの支援に頼り、指導者が金を懐に入れていた」「『恐怖』が働いた。タリバンの進撃の報はSNSで増幅され、報復と個人に対する『清算』が恐れられた」「米国の政治家と軍幹部は耳障りのよいニュースを求め、上申される報告はそればかりに偏った」などと書かれている。(アルクドゥス・アルアラビー紙)
中東の新型コロナ動向
―イランでは、16日発表の新規感染者数は41,194人、直近24時間の死者数は2日連続で過去最高値を記録し、同日は655人であった。テヘランを含む各地では16日から21日までの予定で政府施設、必需品を売る店以外の商店等の閉鎖が実施され、バザールは閑散としている。自家用車による県境を越えた移動も今月27日まで禁止された。政府はワクチン接種を急いでいるが、現状2回接種を完了した人は430万人に留まっている。(アッシャルク・アルアウサト紙)
<特記事項・気付きの点>
―引き続き、アフガニスタン情勢に重点を置いた特別報道体制を取ったため、「ミッドナイト・ニュース」はなし。