アルジャジーラ・モニタリング
<ニュース・ヘッドライン>
8日0600JST「ミッドナイト・ニュース」
■ 米軍撤退後の最初のアフガニスタン政府の顔ぶれが発表される。20年前に打倒されたタリバンが政権に回帰。首相はアフンド氏、副首相にバラダル氏
■ タリバン指導者、「イスラム法に反しない全ての国際的な法や合意を順守する」と声明。アフガニスタンに残るよう国民に呼びかけ、「新政府指導部は恒常的な平和を保証する」と強調
■ 米、制裁がアフガニスタンへの人道支援に影響を及ぼすことを懸念。国連、「包括的解決こそが恒常的な平和を実現する」と指摘
■ 米とカタール、ドーハでアフガニスタン問題を協議。カタール外相、カブール空港の国際線再開の準備が整ったとし、「運航に関する合意待ちだ」と明かす。米国務長官は「タリバンは渡航の自由を尊重すると約束した」と述べる
<特定関心項目報道ぶり>
○ 日本関連報道
―特になし
○ イラン・イラク・シリア情勢
―特になし
○ サウジ・イエメン・湾岸情勢
―イエメンの現地筋によると、サウジアラビアを中心とする同盟軍が、タイズ東方のホウシー派の拠点に複数回の空爆を加えた。
○ エジプト情勢
―特になし
○ 中東和平(占領地情勢)
―特になし
○ 国際テロ・過激主義情勢
―アフガニスタンのタリバンは、閣僚ら33人からなる新政府の陣容を発表した。タリバン幹部たちの「全てのアフガン国民・勢力のための包括的政府を樹立する」との発言や、内外の期待と異なり、タリバン以外からの入閣はなし。ムジャーヒド報道官は「国を苦しめている治安面の緊張という現状を脱する解決策として、暫定政府を樹立した」「今後、政府にアフガン社会の全ての勢力を参加させるべく努め、全国民の代表とする」と説明した。ただ「暫定政府」の任期や、「次の恒常的な政府」の発表時期は示さなかった。
―タリバンが発表した新政府の主な顔ぶれは次の通り。古参幹部が大半を占めた。
首相:ムハンマド・ハサン・アフンド氏。ウマル元指導者の側近で、1990年代に前タリバン政権で外相や副首相を務めた。元カンダハル知事。
副首相:アブドルガニー・バラダル氏。タリバンのNo.2とも言われ、組織の各派から尊敬を得ている。かつての組織の有力軍事司令官。政治事務所代表として米軍撤退をもたらしたドーハでの対米交渉を率い、ガニ前政権とのやり取りも主導した。パキスタンの刑務所で9年を過ごした。
2人目の副首相:アブドッサラーム・ハナフィ氏。ウズベク人。タリバン政治事務所の一員。前タリバン政権で教育相を務めた古参幹部。
国防相:ムハンマド・ヤアクーブ・ムジャーヒド氏。ウマル元指導者の息子。タリバンの「軍事委員会」トップを務めていた。
外相:アミール・ハーン・ムッタキー氏。前タリバン政権では教育相。米国による2001年のアフガン戦争の際、ウマル指導者から組織報道官を任された。最近はタリバン「布教・指導委員会」トップに就いていた他、アフガン国内の部族や政治勢力との交渉を率いた。
内相:シラジュディン・ハッカーニー氏。テロ組織指定されているハッカーニー・ネットワーク(HQN)の指導者。タリバン副指導者の1人でもある。対ソ連「ジハード」を率いたHQN創設者ジャラルディンの息子。
法相はアブドルハキーム・シャライー氏、電気・水相はアブドルラティーフ・マンスール氏、中銀総裁はハージ・イドリス氏、難民相はハリール・ハッカーニー氏、情報長官はアブドルハック・ワシーク氏、軍司令官はファシーフディーン氏が任命された。
また、財務、文化、情報、経済、国境・部族問題、鉱物資源、高等教育、通信、寄進財の各閣僚も発表された。保健相は任命されず。閣僚の内訳は、前のタリバン政権の高官が14人、グアンタナモ米軍基地内の元収容者が5人、タリバン「第2世代」から12人など。ハザラ人やシーア派、女性は任命されなかった。
―ムジャーヒド報道官は、新政府を発表した記者会見で、「米や近隣諸国と良い関係を築きたい」と述べ、世界各国に対して「アフガニスタン新政府を承認し、アフガン国民に支援の手を差し伸べる」よう呼びかけた。
―アクンザダ・タリバン指導者は声明を出し、「アフガニスタンの新指導部は恒常的な平和を保証する」として「国を去らないように」と国民に求めた。また「統治者はイスラム法を固く守るよう努めるだろう」とし、「イスラム法に反しない全ての国際的な法や合意を順守する」とした。
アフガニスタン問題の専門家、アフマド・ザイダーン氏(在イスタンブール)の話:タリバンは新政府内の結束や調和を、国際社会の要求や国家承認の「条件」よりも優先した。「何人も我々に人選や条件を押し付けることはできない。政府を樹立するのは我々だ」との意志を示した。政府をタリバン幹部で固めることで、治安維持が主な課題である移行期を乗り越えようとしている。
そこにタリバンの「外圧」への反発がうかがえる。「要求に応じれば、欧米諸国はさらに要求を強めるだけであり、国家承認のために要求に応じるわけにはいかない」との認識だろう。それゆえにタリバンは最近、欧米諸国が撤退した後の空白を埋める存在としての中国や露という「カード」をちらつかせていた。「ロヤジルガ」などを通じてアフガンを構成する各層を参加させ、国民の望む政府をつくるのは、後の段階になるだろう。新政府に90年代の「イスラム首長国」以来の古参幹部が多く、パシュトゥン人、カンダハル出身者が優勢なのは予想通りで、驚きはない。
暫定首相のムハンマド・ハサン・アフンド氏は、タリバンの重要な歴史的幹部で、組織における「父親的」存在と言える。疾病を抱えており、象徴的、形式的な首相となるだろう。政府を主に運営するのはバラダル氏とみられる。一方、米国との間でテロ関連の問題があるハッカーニー派から、HQN創始者の兄弟と息子を含む4人が入ったことも指摘したい。2002年に対米闘争の狼煙を上げたアフガン東部でのHQNとその創始者グループの重みを示すものだ。
カブールのサラーム大学のバシール・アフマド・ムワッヘド教授(人文科学、政治制度)の話:たとえ「暫定政府」であることを考慮しても、アフガン国民が期待した「一体的、共同」の政府ではなく、国民は支持しないだろう。人口の半数近いパシュトゥン人が尊重されるべきとは言え、ポストのほぼ全てをパシュトゥン人が占め、他はウズベク人が1人、タジク人が2人のみだ。女性、前政権の当局者、「イスラム党」など他勢力にも場所は与えなかった。国内は経済的に困窮し、人道的な惨事に直面する一方、デモが多発し、パンジシール渓谷の民衆の抵抗もある。こうした政府の形が続けば、国連など外部からの支援は望めないだろう。
―カブールのパキスタン大使館前、大統領府付近、北部マザリシャリフなどでデモがあり、タリバン戦闘員がこれを解散させた。大統領府付近では威嚇射撃が行われた。デモ参加者は「パキスタンの介入」を非難し、パンジシール州がタリバンの支配下に入ることに反対するスローガンを繰り返した。同州を拠点とするアフマド・マスード氏に呼応した数百人規模のデモもあった。
―ムジャーヒド・タリバン報道官は、国内で起きているデモについて、「背後に外国勢力がおり、アフガニスタンに問題をつくり出そうと図っている」と非難した。「その勢力が誰か、我々は知っている」としつつ、名指しはせず。
―米ホワイトハウスは議会に、アフガニスタンから退避した米軍への協力者ら多数の人々の定住プロセスにかかる予算として、64億ドルを求めた。主に国務、国防両省、一部はUSAIDに割り当てるという。ワシントン・ポスト紙はこの予算の要求について「大きな議論になる」と予測している。
―サキ米大統領報道官は、制裁がアフガニスタンへの人道支援の提供の妨げになることに懸念を示した。また、「ブリンケン国務長官らがカタールに滞在して、カブールその他アフガン各地の空港稼働のためにできることの把握に努めている」「それが、米国民を含むアフガン出国希望者の退避完遂に役立つ」と述べた。
―ハック国連事務総長副報道官は、タリバン新政府の承認について「国連の各加盟国の判断だ。国連事務局はその決定に関与しない」と述べた。また「交渉を通じた包括的解決だけが、アフガニスタンの恒常的な平和を実現する」と指摘した。
―ムハンマド・カタール外相は、カタール・米の外相・国防相の共同記者会見で、「アフガニスタンからの退避者のうち5万8千人がカタール経由だった」と明らかにした。また「カブール空港の修復が行われ、運航が可能になった」「間もなく国際線再開の準備が整うが、空港運営の合意が必要だ」と語った。
―ブリンケン米国務長官は、「米はタリバンとやり取りし、タリバンはアフガニスタンからの渡航の自由を認めると確認した」とし、「米国民を含めてアフガン出国を望む人への許可をタリバンに行わせる」と語った。
○ マグレブ情勢
―特になし
○ トルコ情勢
―チャブシオール・トルコ外相は、UAEとの過去数年の対立を終わらせるべく実施中の両政府高官の協議について、「前向きな勢いがある」と評価。「この勢いが続き、相互による行動がとられれば、トルコ・UAE関係は正常に戻るだろう」と述べた。両国の高官や情報機関幹部の協議に続き、エルドアン大統領がムハンマド・アブダビ皇太子と電話会談していた。
<その他の重要ニュース要旨>
―スーダン南部白ナイル州の豪雨の影響について、州当局は「ジョウダ地域の広範囲で洪水が発生し、53の村が完全に消えた」と述べた。「ロジが脆弱で、数百人が取り残されている」という。
エリコの目
―イラク司法省は、「(IS所属容疑等)テロリストとして刑務所に収容されている受刑者の数はおよそ5万人である」と初めてその衝撃的な数字を発表した。そのうち、死刑を宣告されている者が約半数いるが、死刑執行の大統領令が出ないため、未執行とのこと。(アッシャルクルアウサト紙)
中東の新型コロナ動向
―イスラエル、その後の感染状況
イスラエルでは、9月1日に新規感染者数が20,523人と過去最高値を記録したが、翌日は11,000人台、3日は6,200人台へと低下した。しかし、依然厳しい感染拡大下にある。5日の死者数は51人と、過去最大級の数値であった。
<特記事項・気付きの点>
―特になし