細分化するアラブ諸国

◆お題目にとどまった「アラブの統一」

アラブの統一を目指す「汎アラブ主義」は1952年の「エジプト革命」で同国の軍部支配を確立した故ナセル大統領の一大政治綱領であった。アラビア半島から北アフリカの西端までをかつてのイスラム帝国のようにひとつの国家へ…。偉大な祖先の遺産である共通言語・アラビア語を話す諸民族。これが一つになって初めて、「欧米の植民地支配のくびきから自立できる」と熱狂的に呼び掛けた。しかし、その精神を共有したバース党は分裂してシリアとイラクで反目し合い、ナセルに憧れてクーデターを起こしたリビアのカダフィもまた孤立した。アラブ世界は「人為的に引かれた国境線」を克服できなかったばかりか、「アラブの統一」はお題目にとどまり、20カ国余りを君主制であれ、共和制であれ、基本的に独裁者が支配する構図が出来上がり、世界の発展から取り残された。

◆当然の帰結は無政府化、破綻国家化

半世紀の後、民衆はこの独裁体制がもたらす低開発に「反乱」を起こした(アラブの春)。ただ、それは変革をもたらす強力な指導者を欠き、低開発によって肥大化していた社会のがん細胞たる「宗教的過激主義」を表舞台に解き放った。民衆は「独裁者のくびき」から解放されたが、これで安定し、統一へ向かうのではなく、「当然の帰結として」無政府化、破綻国家化が起こった。そして激しい内戦となり、国土をさらに細分化する必要が生まれた。キレナイカとトリポリに分裂しそうなリビア(現在は群雄割拠)、アラウィ国家とスンニ派国家、クルド人国家という三分割が避けられないシリア、既にクルド自治区が事実上独立していて、スンニ派とシーア派が分裂しそうなイラクなど、各地の政治力学のベクトルは国家分裂に向かっている。そんな中、サーレハ大統領という重しを失ったイエメンもまた、事実上南北に分裂している。(2月10日イエメン南部に自治権が付与されたが、分離主義者は反発)。  

◆中東の戦国時代が始まったのか

歴史をひもとくと、百年単位で戦乱に明け暮れたという事例を世界各地で拾い出すことができる。中東の戦国時代が始まったのではないか。生来楽観的な筆者も、昨年見たピラミッドが今生の見納めになるのでは、と悲観的になる。この地域が安定するためには、トルコに倣い、世俗主義を徹底する(宗教権威を完全否定する)必要がある。漸進的な民主化はその後に始まる。

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