◆補完関係にある日本とアラブ諸国
4月に東京で湾岸協力会議(GCC)が開催した連続セミナーは、改めて日本経済の中東諸国依存の実態を確認する機会となった。わが国経済は、湾岸産油国が産出する化石燃料(石油、液化天然ガス=LNG、液化石油=LP=ガス)に過度に依存しているだけでなく、例えばドバイのあるアラブ首長国連邦(UAE)一国を取っても進出日系企業数431社、在留邦人数は約3,500人に達しているという。非石油部門の貿易や、建設を伴う巨大プロジェクトへの共同出資や受注が急増し、アラブ人の好きな言葉である「補完関係」の度合いを強めている。彼我のビジネスを結ぶ立場の仕事をする者にとってはご同慶の至りであるが、過激派組織「イスラム国」の台頭、イエメンへの軍事介入など、「アラブの春」に起因する「野火」の延焼を食い止めるのに青色吐息のようにも見える湾岸王制諸国の安全保障に不安はないか?
◆イランのアラブへの「ちょっかい」
今年、日本との外交関係樹立60周年を迎えたサウジアラビアへは日本からの直接投資が増大、日本で学ぶ留学生も桁外れに増加し、国費留学生だけで約640名に上り、関係を深めている。この王国は、原油価格の切り下げ戦争を仕掛ける余裕のある資金力と王家に対する国民の敬愛の念、など、どれをとっても短期的な不安材料は見当たらない。しかし、中期的に懸念されるのはスンニ派・シーア派の宗派間対立を利用したイラン神権政権の「ちょっかい」がここのところ顕著で、これを(理由はよく分からないが)米国が放任していることだ。サウジアラビアはシーア派を正しいイスラムと認めず、排除する思想(ワッハービズム)を政治権力のよりどころとして建国された経緯がある。
◆力のバランスが崩れる
イランは、シリアの内戦に「身内」であるシーア派民兵組織ヒズボラを参戦させ、イラクでは「イスラム国」放逐を狙ったイラク政府の戦争に公然とイラン人戦闘員を送り込んでいる。4月、オバマ米大統領は これを評して「外国人戦闘員はイラクの主権を尊重せよ」と述べた。イランのアラブ国へのあからさまな干渉は問わず、「おとなしくやってくれ」と言わんばかりだ。イランはイエメンのシーア派部族も支援しており、同国の正統政府が危機に瀕してサウジアラビアが空爆という強硬措置に出たのは当然だ。湾岸諸国は伝統的に親米で、米国が庇護を与えて安定してきた。この力のバランスが崩れると、ロシアがここぞとばかりに口を出す。誠に困った状況が生まれてしまった。