◆ウクライナで米ロが「代理戦争」
日を追うにつれ、「代理戦争」の色彩が強まるウクライナ戦争。プーチン大統領は9日の戦勝記念日演説で米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国を名指しで非難した。
対する米国は、戦争前からの大方針に従い兵力こそ送り込んでいないものの、ロシアが「ネオナチ」と呼ぶウクライナ軍に対し大量の最新鋭兵器を供給している。ウクライナ軍の兵士は国外でこれらの武器の取り扱い訓練を受けており、米国は今後も長期にわたって支援を継続できる体制を整えた。
「ロシアが二度と侵攻しないよう弱体化することを望む」とのオースティン米国防長官発言は、いくら「直接戦わない」にせよ、米ロ間の軍事的対決が事実上進行していることを示唆している。内外の多くの識者が、ロシアによる核兵器使用が現実になると警告するのは無理もない。第3次世界大戦は既に始まっているのかもしれない。
◆ハマス幹部、モスクワ訪問の理由
今月4日にモスクワを訪問したパレスチナ自治区のイスラム組織ハマスのアブマルズーク団長が、衛星メディア「アルマヤディーン」のインタビューに答えるのを聞いた。なぜこの時期に(「悪役」のロシアを祝福してパレスチナの大義をおとしめるような)訪問をするのかと聞かれ、アブマルズーク氏は、「パレスチナは第1次大戦以来の国際体制(欧米とシオニストによる世界支配)の犠牲者だ。この体制下、違法な占領が我々に艱難(かんなん)辛苦をもたらした。これを破壊し、新秩序を打ち立ててくれるロシアの役割に期待する」と述べた。
従来イランの支援を受けているハマスがロシア陣営に懸けるというのは特段不思議ではないが、この戦争の本質を敏感に嗅ぎ取っていると感じた。その一方で、ハマスと敵対している中東の権威主義国家群(サウジアラビア、アラブ首長国連邦=UAE、エジプト等)はどうかと言えば、彼らも米国陣営から大きく距離を置いていることが、今、中東ウオッチャーの主要関心事である。
◆米国なき後の中東を視野に
中東における米国陣営の旗色はすこぶる悪い。ロシアの資格停止を決議した国連人権理事会の採決では、ほとんどの国が棄権または欠席し、賛成したのは、イスラエル、トルコと、トルコや欧米に支援されているリビアの暫定政府だけであった。シリアとイランは、キューバなどと共に反対した。
「棄権」を、中立(様子見)と見るのはナイーブ過ぎる。サウジのムハンマド皇太子は原油の増産を求めるバイデン米大統領の電話すら取らなかった。UAEのアブドラ外相がロシアを訪れ、数日後にはシリアのアサド大統領がUAEの首都アブダビを訪問、10年ぶりの歓迎を受けた。アルジェリアは、ロシアのラブロフ外相の訪問を受け入れ、欧州連合(EU)への天然ガス供給でロシアを代替するはずのアルジェリアの役割に黄信号がともった。
これら諸国は、中東に米国なき後、ロシア・中国に代表される権威主義国家群が覇権を拡大すると見て、用心しているのである。
米国がアフガニスタンからあれだけ恥ずかしい敗走をした記憶はあまりに強烈だ。その上、安全保障上の義務を果たさず、内政(人権問題)にも口出しされるとあっては、少なくともバイデン政権の間は米国側から劇的な歩み寄りがない限り、中東と米国の関係は好転しないだろう。米政権が共和党に代われば好転はあり得るが、それは非民主的な権威主義体制との妥協を意味する。バイデン政権が掲げる錦の御旗「民主主義を守る戦い」のメッキは剥がれることになる。