◆強まる一方の親イスラエル色
3月5日にカイロで開催され たアラブ首脳会議は、「ガザ復興計画」の推進を約束したが、5万人を超える住民を集団虐 殺し、今も民族浄化を続けるイスラエルの責任には一切言及することはなかった。トランプ 米大統領が直前に言及した「住民強制移住計画」( 200万人超の難民を隣接国に押し付ける)さえやめてもらえるならお金は出す、ということだろう。そのトランプ大統領はバイデン前政権以上に親イスラエル色を打ち出してはばからない。国際刑事裁判所から逮捕状が出ているイスラエルのネタニヤフ首相を大統領就任後の最初の賓客として招請し、先日は2度目の訪米を再び赤じゅうたんで歓迎した。
中東では今、この「米・イスラエル連合軍」がやりたい放題だ。3月18日にイスラエルが一方的に戦闘(というよりは避難民を狙った無差別爆撃)を再開し、既に1000人以上を文字通り虐殺したかと思えば、米 軍はイエメンの 武装組織フーシ派を懲罰するとして、首都サヌアなどを大規模に爆撃。子供を含む100人以上の民間人を死傷させた。 攻撃は 4 月に入っても断続的に続いている。
◆フーシ派攻撃に見える奇妙な構図
フーシ派が罰を受けなければならない理由は、同組織が「ガザ支援」を錦の御旗にして、弾道ミサイルとドローンでイスラエルを直接攻撃し、紅海におい ては航行する商船と米艦隊を襲撃していることだ。世界経済の大動脈・スエズ航路はまひ状態に陥っている。この一点を見れば、フーシ派は世界経済に重大な悪影響を及ぼすとんでもないテロ集団 ということになる。
しかし、日本を含む西側諸国は、また、前述の アラブ連盟加盟国は、パレスチナ人をイスラエルの蛮行から守るためにわずかでも有効な手段を講じただろうか? 何ら具体的な制裁を実施しない中で、唯一 「目には目を」でイスラエ ルに軍事的対抗措置を講じているのは、フーシ派だけなのだ。西側の民主的な市民の願いと武装民兵組織の主張が一致し、これに米国、ただ1国 が対峙 (たいじ)するという奇妙な構図が横たわる。これをどう理解したらよいのだろうか?
◆正念場を迎えたイラン政権
筆者のこの問いに、地域に住むある専門家は即座に「フーシ派はイランの代理戦争を行うエージェントだ 」と答えた。実際、イスラエルとこれら代理勢力の戦争は、レバノンのシーア派組織ヒズボラをほぼ壊滅させ、シリアのアサド政権を崩壊させるなど、中東の戦略地図を大きく塗り替える 結果をもたらしている。「米国のフーシ派攻撃はこの文脈で捉えるべき出来事であり、それはイラクの民兵組織、そしてイランそのものにも及ぶ」とこの専門家は言う。イランの神権政治の崩壊すらあるとの見立てだ。
トランプ大統領は、米国がイランと核問題を巡る直接交渉を開始したと発表した。交渉を拒否していたイランが応じたとすれば、 弱体化 に歯止めをかけたいイラン政権の焦りが背景にあるのかもしれない。 中東の政治は弱肉強食、ジャングルの掟 (おきて)が支配する世界だ。しかし、だからといってガザ地区の人道危機、戦争犯罪を放置してよいわけはない。シーア派過激主義者のプロパガンダと我々の願いが一致するというねじれは、米 国政治が親イスラエルの 勢力によってゆがめられていることに起因するのである。世界は団結してこの問題に立ち向かわなければならない。