ホルムズ海峡封鎖は「存立危機事態」

◆アラブの「同盟国」守れないアメリカ

 イランに対する軍事攻撃が開始されてから3か月以上が経過したが、国際エネルギー機関(IEAによると、この間、湾岸産油国のエネルギー関連施設84カ所が攻撃され、そのうちの34カ所で深刻または極めて深刻な被害が発生しているという。これらの施設は平和を前提に建設された無防備なインフラであり、イランのミサイルとドローンによる攻撃を完全に防ぐことができない。年初に本欄で指摘したように、大義なきアウェー戦を戦う米軍は兵士一人、艦船一隻でも失えば「負け」となるため、アラブの「同盟国」を守れないまま、撤退のタイミングをうかがっている。

 攻撃を受けた港湾施設の中には、ペルシャ湾外のフジャイラ(アラブ首長国連邦=UAE)やソハール(オマーン)、そして紅海ルートの主要積出港であるヤンブー(サウジアラビア)も含まれる。ホルムズの航行が依然ほぼ停止している中、湾外から原油・石油製品を輸出しようとする試みも、イランがその気になれば大きく制約を受けてしまう危険が常に存在しているのだ。

◆湾岸諸国、エネルギー投資をむしろ加速

 その一方で、これほどの危機に見舞われながらも、湾岸諸国は巨額のエネルギー関連投資の実行をむしろ加速させている、と中東の衛星テレビ局アルジャジーラは強調する。産油国の狙いはもちろんエネルギーの安定供給で、自国だけでなく、世界各地の油田、製油所、貯蔵施設等に投資してエネルギー供給国としての責任を果たそうとしているらしい。例えば、世界の液化天然ガスLNGの20%を産出するカタールは、ホルムズ封鎖以降、1隻のLNGタンカーも送り出せていないが、米テキサス州に カタ ールエナジー社 が70%出資するプロジェクトが完成し、4月下旬に初めてのLNG船が出航したことを朗報と報じた。

 また、ロイターは、UAE の国営石油会社(ADNOC)がShip toShipという、積荷を湾外で積み替える手法によってナフサ輸出を再開したため、1300ドル/トンまで上昇していたナフサの指標価格が 6月2日には788ドルに急落したと報じた。積荷はいずれにせよ海峡を通過しなければならないが、売り手側の危険負担で積み出すことによって、アジアの顧客は、安全に、つまり、低コストで買うことができる 。

◆政府が行うべきは紛争当事国との対話・調整だ

 湾岸諸国の戦争被害は甚大だが、まだ持ちこたえるだけの体力は十分だ。しかし、飲料生活用水のほぼ100%を賄う海水淡水化施設が灰燼に帰したならば、国民生活そのものが成り立たなくなるといった脆弱性も抱えている。一方、エネルギー消費大国日本は大量の備蓄や代替調達でしのげると、政府は平静を呼びかけているが、ガソリン補助金はあと数カ月で底を突く。明日停戦が実現しても、年末から来年にかけて、国民生活のさらなる 混乱は避けられない。 まして、イスラエルの頑迷なレバノン攻撃が続けば、世界の経済が破綻する。

 イランを巡る情勢は、実に、わが国にとっては第一級の「存立危機事態」なのだ。湾岸諸国の安全と安定、そしてこの地域からのエネルギー資源の安定供給が 、わが国とわが国が強く相互依存するアジア各国の生命線である。私たちは、もっとこれら諸国との協力・補完関係の増進に関心を向けるべきだ。経済面では民間レベルでの関係が進んでいるが、政治・安全保障面において、より積極的な役割を果たさなければならない。

 政府が行うべきは、苦心する民間企業への恫喝ではなく、根本にある紛争の解決を目指した当事国との対話・調整である 。

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