◆「仲介役」を演じた聖戦主義指導者
ヨルダンのスンニ派聖戦主義の精神的指導者マクディシ氏は、日本人人質が斬首され、ヨルダン空軍のパイロットが焼殺されたと判明した後で地元テレビに出演し、自分がヨルダン政府と過激組織「イスラム国」の間で捕虜交換の仲介をしていたと表明した。交換交渉の対象だったヨルダン軍飛行士は、昨年末の拘束から間もなく殺害されていたようであり、イスラム国はマクディシ氏とヨルダンにうそをつき続けていたことになる。そして、イスラム国側が望んだリシャウィ死刑囚の釈放の交換条件として突如後藤健二氏の解放が提示され、彼は驚愕(きょうがく)したと述懐した。欺瞞(ぎまん)に満ち、焼殺や斬首という、イスラムの教義とは相いれない手口をもてあそぶイスラム国について、マクディシ氏は「聖なる宗教に泥を塗った」と強く非難した。そしてその一方で、イスラムは「無罪」だ、われわれの(正しい)運動は、やがて日の目を見るだろうと結んだ。
◆「聖戦士」を送り込む役割
本当にそうだろうか。彼が「仲介者」の役を演ずることができたのは、彼のチャネルを通じて、多くの「聖戦士」をイスラム国に送り込んだからだ。ヨルダンであれ、サウジアラビアであれ、欧米諸国であれ、その国に留まっている限りは武器を取る可能性のない若者がイスラム国を目指すのは、聖戦を美化する教義にそそのかされるからである。百歩譲って、イスラム国の正体が旧バース党の残党を核とする暴力集団であると認めるにしても、彼らがカムフラージュのためにかぶっているイスラム聖戦主義の衣を縫い続けたのは、他ならぬマクディシ氏自身だったではないか。
◆欧米のイスラム恐怖症に歯止めを
ヨルダンのアブドラ国王は「短期的には軍事、中期的には治安、長期的には思想対策が重要」と、意識改革の重要性を強調した。エジプトのシシ大統領も地元宗教権威に働き掛けている。不信心者は殺してよいとか、聖なる戦いのために銃を取るのは信徒の義務、といった過激な教義が世界中のモスクから一掃されない限り、これを利用してテロを働く勢力の台頭を抑えることはできない。ムスリム同胞団を非合法化し、大弾圧を開始したエジプトと湾岸諸国。ヨルダンはもっとソフトな方法で思想改革を進めるという。その一方で重要なことは、欧米社会に広がる「イスラム恐怖症」に歯止めを掛けることだ。欧米社会でイスラム教徒が阻害され、攻撃される限り、イスラム過激主義は反作用の法則で生成するからである。世界は歴史的な転換点にあると言えよう。