偽装と市場監視(その2)

ところが、現地訪問を通じて明らかになったこと(いや、単にわれわれが知らなかった、ということだが)は、模倣品等の取り締まりについては、中東の方が先進国であり、日本は相当遅れて始めた分、あまり大きな口は叩けない、ということだった。
われわれの訪問先は大きく分けて2つだった。一つは模倣品の輸入や再輸出の際にこれを水際で取り締まる権限を有する税関当局。ドバイの場合、フリーゾーン(自由貿易地区)を経由する再輸出取引が圧倒的に大きいので、フリーゾーン当局もその関係になる。もうひとつは、品物が輸入された後、市場に出回った際これを取り締まる警察権力等である。
私が「おやっ」と思ったのは、後者の仕事をしている訪問先として市役所があったからである。団のまとめ役である日本政府の専門官によれば、シャルジャの市当局が、模倣品取り締まりでは最もよい成果を挙げているので、まずは「感謝しに行かなければ・・・」とのことだった。
シャルジャ市消費者保護局不正商取引対策課。シャルジャは、連邦国家制をとっているUAEではドバイの北に位置する別の国だが、目に見える「国境」などはない。東京に対する川崎市のように、ドバイのベッドタウンとして、また、よい意味でドバイと競争している「都市国家」だ。その市役所がニセモノの摘発と廃棄、そして業者の処罰までビシバシとやっているという。私は「ははん」と頷いた。それは、私がイスラム学の講義の中で教えている「ムフタシブ(المحتسب)」の制度の現代版に他ならなかった。
ムフタシブは、イスラム帝国が栄えた時代に、市場で不正が行われていないかと街中を巡回した市場監督官である。11-15世紀に各地で書かれたヒスバ(公益監督)の手引書によると、ムフタシブの主要な任務は度量衡の監視、物価の維持だった。つまり、秤を操作して不当な儲けを挙げようとする商人、不当な値段をふっかけて暴利を貪る商人などから市民生活を守ることが役人の重要な任務であった。湾岸諸国では、そのシステムが当たり前のように現代の統治機構、地方自治の中で生きているのだ。

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