ムバラク大統領とその2人の息子、アドリー内相らに対する裁判が開かれました。その模様を伝える映像の翻訳をしながら考えたこと。
(1)裁判の開かれたカイロ東部の警察学校はもともと「ムバラク治安アカデミー」という名の施設だったそう。法廷用に改修を施し、大スクリーンで裁判の生中継映像を見せるなど、演出がにくい。ラマダーン月は庶民が娯楽を求め、よりテレビに釘付けとなる月ですが、最大のドラマをこの月にぶつけてきた軍部の戦略やいかに?
「元大統領の死刑を望む国民を喜ばせつつ、できるだけ時間をかけて裁判を行い、死刑判決を出すも、最終的には執行猶予や恩赦をつけて刑は執行しない」といったシナリオでしょうか。
(2)ムバラク氏の罪状は3つ。民衆蜂起の際のデモ隊への殺人教唆、シャルムエルシェイク観光開発をめぐる収賄、イスラエルへの天然ガス不当廉価販売。もっと他に悪いことをしているのは間違いないので、絞首刑にしてもよいとは思います。(特にムスリム同胞団弾圧)しかし、一方でこの国の外交的立場を堅持し、30年にわたって戦争を起こさず、民を曲がりなりにも食べさせてきた。その貢献も大きいのです。ムバラク氏は、国外(イスラエル)での病気治療を好まず、国内に留まり裁判を受けました。国士であることを最期に示そうとの心意気や立派です。日本式に言えば、ここはその意を汲んで、立派に絞首台の露と消えていただき、エジプト再興の守り神に昇華されることがご本人の最大の勲章かもしれません。
(3)天然ガスを国際価格水準より低い価格でイスラエルに売り、国家に損害を負わしめた、という訴因を聞くにあたっては、国際価格水準より大幅に高い価格で買い、日本国民に多大な損害を負わしめている日本の電力会社の責任(これは会社だけでなく国、メディア全体の責任)はどうなのか???と改めて感じました。日本は、1日も早く外交力を取戻し、せめて国際価格水準で原油、ガスを調達できるようにならなければなりません。特に震災復興期には産油国からの援助として、割引価格で調達できるよう、国民一丸となって要求していくべきです。
(報道によると、日本の電力会社はカタールのLNGを国際価格の2倍以上の高値で買い続けているとのことです)
(4)アラー、ガマールの2人の息子については、大統領という職業のおやじを持ったが故の悲劇であろうと同情を禁じ得ません。どうすれば、彼らの今の運命を逃れることができたでしょうか。よほどの問題意識を持って父親とも敵対するような立場、喧嘩して国外に行って芸術活動でもしている、とか出家していたとか、でなければエジプト社会で汚職にまみれずに生きていけるはずがありませんでした。普通のよい子だった、そんな表情を「被告の檻」の棒の間から垣間見ました。
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