にわかエネルギー評論家の間で最近人気といえば「コンバインド・サイクル」がある。天然ガスを燃料とする発電方式で、ガスタービンを回す際の高温で蒸気を作り、蒸気タービンも回してその熱エネルギーが電気に変わるため、効率がいい。いわば、ハイブリッド車・プリウスの発電所版のようなものだ。
ソフトバンクの孫さんもこれがお気に入りらしく、最近話題になったネット対談で富山の石炭火力をガス発電に変えたら「発電容量が1.6倍になった」として、「私は一刻も早く石炭火力は、LNGのコンバインドサイクル(発電)とかそういうものに置き換えるべきだと思います」と発言している。
コンバインド・サイクルが実用化したのは何十年も前のことで、当然その効率性ゆえ各電力会社は順次導入している。原発事故があったからにわかにどうこう、という話ではない。問題なのはその燃料であるLNGの入手可能性だ。世界の火力が依然、大部分石炭に依存していて、日本でも20%以上残っているという背景には「資源調達の可能性」という、我が国最難関の課題が横たわっている。石炭は世界中で採れ、価格面で優等生なのである。
このように言うと私が天然ガスを否定していると思われるかもしれないが、そうではない。天然ガス、とりわけLNGには愛着がある。LNGは、ガスをパイプラインで輸入することの難しい日本が「産み育てた資源」である。私は偶々、カタールでその資源が生まれる際の「産みの苦しみ」を目撃した。そしてそれから約10年を経て、カタールからの「初荷」が中部電力川越火力発電所で燃やされるために四日市港へ入港するというその日にカタールの記者と万感の思いで取材した。確か1997年頃のことだ。LNGはクリーンなエネルギーであり、その利用促進は(再生可能エネルギーや原発とは比較にならないが)環境負荷を軽減する。
川越火力発電所は世界最大級の発電能力を誇る
前置きが長くなったが、最近、ガスの取引をめぐって2つの興味深い「犯罪」が報じられている。ひとつはこのブログでも話題にしているエジプトのムバラク大統領で、エジプトのガスをイスラエルに「不当に安く」売り、国家に損害を与えた、という嫌疑がかけられている。もう一つは、ウクライナの「美人すぎる元首相」ティモシェンコさんで、ロシアの天然ガスを「不当に高い」価格で買う契約を結んで、やっぱり国家に損害を与えた、というものだ。これらの取引で「得した方」のイスラエルとロシアは「犯罪者」にひどく同情的だ。特にロシアは、あからさまに支援しているヤヌコビッチ政権の、ティモシェンコ氏は最大の政敵であるにもかかわらず、「取引は正当」として、同元首相逮捕に強く反対しているという。それほどまでに、ガスの値段を1ドル上げる、下げる、ということは大問題なのである。
翻って、我が国の場合はどうか。
報道によると、我が国の電力会社等は国際価格のほぼ2倍近い価格でLNGを引き取っているということだ。なぜそういうことが起きるのか、にわか評論家のひとりである小生はここに十分なメカニズムを展開することができない。しかし、公務員制度改革を主張している経産省の古賀氏が言うように、「経費はすべて電力料金に転嫁できるため、値切る必要がない」という我が国の電力供給システムの構造上の問題である可能性が濃厚だ。そしてこれは、ガスだけにとどまらず、石油についても同じ構造となっている。アジアプレミアムと呼ばれる高値買いの慣行がずっと続いていることと、電力料金の決定システムは無関係でない。
電力会社の弱腰を糾弾してみたところで、産油(ガス)国側が足元を見てふっかけてきたら対策の仕様がないのでは?というご意見にはこう答えよう。イスラエルは賄賂と外交力を使って安値を勝ち取った。日本は賄賂を使う必要はないが、正攻法で十分できるのでは?ウクライナでは、高値買いした首相は逮捕された。日本では誰も逮捕されない。それでいいのだろうか。損害は、日本国民全体でニコニコ払いすればよい、ということでいいのだろうか。
それでもうまく行っていた時代があった。しかし、今はそうではない。原発の停止で化石燃料への依存度が上がっている。これだけでも電気料金は上がる。その上に福島第一の賠償を国民が負担しなければならない。このことでも電気料金は上がる。我が国が復興を遂げるには、燃料の輸入価格を下げることがどうしても必要だ。どうしたらいいか。この先の議論は稿を変えることとしよう。
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