大人の解決

エジプト大統領選挙に決着がつき、心配していた暴動もクーデターも起こらず(私は初めからそう言っていたのだが)、安定への期待からカイロの株式市場は急伸したという。
断片的なニュースを追う中で、私が気に入ったのは、「シャフィーク候補が敗北宣言し、当選したムルシ候補を祝福した」という一件だった。シャフィーク陣営にしてみれば辛い宣言であったに違いないが、その後、暴動や反対デモ、あるいは治安部隊の出動、強制連行などといった事態は起きていない。しかし、もし選管が逆の結果を発表していたらどうであっただろうか。まず、間違いなく、国内いたるところで暴動とデモが起き、軍と治安部隊はこれを鎮圧する仕事で忙しくなっていたであろう。
投票の結果は、ほぼ互角だった。シャフィークに投票した人々は理性的に行動できる「人種」なのであろうか。それとも冷めていただけなのか?逆に、民主主義を叫ぶムルシ支持の人々は、直ぐに暴力に訴える瞬間湯沸かし器型の人々なのであろうか?
その判断は置くとして、今ムルシ新大統領について「選挙で選ばれた史上初の大統領」という称号がついていることと、この「敗北宣言をし、対立候補の当選を祝福する」というニュースを兼ね合わせて考えてみれば、エジプトが如何に大きな民主化のステップを踏み出したか、理解できる。ほんの少し前の風景からは想像もつかない進歩なのだ。「国民が怒れば世の中を変えることができる」、これは完全に行き詰ったわが国の政治を考える上でも、よい教訓を与えている。
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ところが、このシャフィーク氏には後日談がある。報道によると、シャフィーク氏は26日、3人の娘らを伴い、UAEに向けて出国した。いわば早すぎる一種の政治亡命、国外逃亡である。このニュースとほぼ同時に、シャフィーク氏は「私に投票してくれた1200万人以上の国民の期待に応えるべく、新党を設立する」と表明したというニュースも伝えられていた。
背景には、同氏に対する汚職容疑での摘発が迫っていることが挙げられている。アブダビに向け出発する便の出発の15分前にVIPルームにひっそりと現れたシャフィーク氏は空港責任者に丁重に見送られたものの、周囲では「泥棒!国の金を返せ!!」の怒号が飛び交った由。
結論。
軍部は、ムスリム同胞団と革命勢力すべてを敵に回して弾圧するのは危険と判断、新大統領ポストを同胞団に譲るが、その権限は剥奪する、という取引をした。同胞団が大統領になろうと、軍部主導の「体制」変更はないので、軍部既得権組の反乱(「本当のクーデター」)はなかったし、その点信頼している保守的な市民の反乱もなかった。
しかし、既にパージされているムバラク前大統領との腐った関係について、あからさまな証拠のあるシャフィーク氏が表に出ると何かとまずい。ここは、早期にこの問題に蓋をしてしまおう、ということになったのだろう。
これは「取引」に含まれていることであるから、同胞団がシャフィーク一家をこれ以上追い詰めようとはしない。おそらく、ムバラク一家の汚職と同じく、闇に葬られることであろう。

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