尖閣、竹島の問題が話題になっているが、日本が抱える領土問題の中でも最大の懸案は「北方領土」であろう。それは、中立条約を破って一方的になだれ込んできたソ連軍によって67年前に占領されて以来、違法な占拠が続いている。しかし、それが「違法」だなどと言って何の解決になろう。ロシアが、その隣国との関係において違法でなかったことなど、歴史上、一日もない。
もし、日本の(米国に対する)降伏が数日、ないし数週間遅れていたら、日本は朝鮮半島やドイツのように分割統治を受けていただろう。北海道がロシアの領土となり、今の北方領土がそうであるように、永遠に帰ってこないことを半ば知りつつ、「北海道の返還は日本国民の悲願」などという掲示板が津軽半島に立っていた。
日本は米軍によって占領され、米国の51番目の州となった。ものは言いようで、それは「日米同盟」と呼ばれる。この米帝国による日本の緩やかな植民地支配が日本の戦後復興と国民の生活水準向上にどれほど貢献したか、論ずるまでもない。
この歴史的展開は、敷かれたレールの上を走るのは得意だが、自ら戦略を立てて行動することが金輪際苦手な日本人にとってどれほど有り難かったことであろう。戦後、私が生まれ育ち、高等教育も受けることができ、健康でそれなりに文化的な生活ができたのは、(父母の慈愛は別として)この仕組みを率直に受け入れた先人の現実主義のおかげである。その結果、元来の外交オンチが亢進し、真の独立国への脱皮のチャンスを逃し、大いなる衰退と貧民国家への道程を歩み始めなければならなくなるという副作用はあったが。
このようなことをなぜ今考えるかと言えば、シリアの内戦が激しさを増すのを見て、心が痛むからである。アサド政権が自信を持って市民(=テロリスト)を攻撃し、「国際社会」を敵に回しても容易に倒れない最大の理由は、ロシアが直接あからさまな支援を惜しまないからだということに目を向けなければならない。
東西冷戦の時代は、はるか昔に過ぎ去り、今さら超大国対立を持ち出すなどナンセンスと思う読者がいるかもしれない。確かに、仮想敵をなくした米国は新たな敵としてイスラムを仕立て上げ、対テロ戦争の10年を費やした。それでも、否定することのできない国際政治の現実は、この極めて好戦的な唯一の超大国米国が、常に新たな戦争の機会を嗅ぎ回っていることと、歴史的に隣国に災厄しかもたらさない邪悪な独裁者を戴き続けるロシアという世界最大の国が、紛争の種を播き続けていることだ。なお、親愛なるロシア民族の名誉のために付け加えると、一般市民は無垢で、各種の才能に満ち溢れ、平穏をこよなく愛する人々だ。私はそんなロシア人が好きである。
シリアはロシアにとってアラブ地域に残された最後の聖域である。この戦略的空間をロシアはあらゆる対価を支払っても死守したいと考えている。そのことが、シリア国民の苦悩を長引かせている最大の理由だ。逆に米国悪玉論で言うならば、中東地域には常に紛争の種が存在していることが好ましく、シリアが早急に民主的な国家に生まれ変わることなど全く期待してはいない。この点、アサドの早期退陣を求めるクリントン国務長官の言葉は、ご本人の意向はどうであれ、軍産複合体の真の意向とは逆のことを言っていると考えられる。
翻って、日本の領土問題に帰る。中東の人々が犠牲になり続けてくれていることで、東アジアはこの仕組みの発動を今のところ免れている。しかし、永遠にそうで有り続けることは不可能だ。核兵器を開発した北朝鮮を米国がおとがめなしに許しているのは、単に対テロ戦争でお腹が一杯だったからである。腹を空かせれば、いつ東アジアに死のセールスマンが回ってくるか、わからないのである。戦争・平和の選択に関して、米国に民主主義は機能していない。
北方領土は、このままでいい。間違っても、取り返そうなどと思わないことだ。アラビア語で「平和」と「降伏」は同じ語根に属する言葉だ(salam と istislam)。降伏とは「投げ出す」ことでもある(同じくアラビア語で)。外交官時代を通じ、日本の主張は何かと問われれば、「放棄した千島列島に北方領土は含まれない」と言わざるを得なかったけれども、自分自身全く納得していない。ヤルタで会談したスターリンとルーズベルトの間にそのような認識はみじんもなかったことは100%保証できるし、その後も米であれ、露であれそのような認識を持ったことは一度もないだろう。
竹島は、日本固有の領土だ。しかしだからこそ、弟分たる韓国国民にプレゼントすればよい。日、韓、米の結束を固めることに有効に使うなら、安いものである。北の核ミサイルが日本を4たび汚染する事態は絶対に避けなければならない。
尖閣諸島は、米国が日本に返還した日本固有の領土である。それが属する沖縄県は51番目の州の中でも軍産複合体が最も愛して止まない地域である。米国の積極的な関与を引き出し、安定的に支配する必要がある。そのためには、政治的パフォーマンスを控えるべきだ。尊敬する真のリーダー、石原慎太郎が晩節を汚さぬことを祈る。
日本を支配する現在のGHQ(在日米国大使館)
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