◆よみがえるキッシンジャーの言葉
「米国の敵は米国を恐れるべきだが、米国の友邦はもっと恐れるべきだ」。25年間駐米大使を勤め、米国を最も良く知る男であるサウジアラビアのバンダル王子が引用したこの言葉は、キッシンジャー元国務長官のものとされる。7月中旬、イランとの核合意の成立に失望したバンダル王子はワシントンポスト紙に投稿、この名言を引用した上で「今や中東の人々は『神のご意志』と、最も古くかつ力強い同盟者(だった米国)以外の諸勢力に頼らざるを得なくなった」と嘆いた。アラブ世界に宗派間対立を持ち込みあからさまな覇権を求めるイラン神権政治と、スンニ派の盟主・サウジアラビアは、イラク、シリア、レバノン、イエメン、バーレーン等、周辺各地で既に熱い戦争を構えている。
◆ロシア、宿願の失地回復チャンス
当然、サウジアラビアはロシアと接近する。当初は、それを見たオバマ政権が翻意してくれればよい、との期待がこもっていたが、このメッセージすら無視され、イランが国際社会に復帰することが決定的と知ると、独自外交路線に乗り出した。アサド政権をどう始末するか、イエメンの戦争をどう終結させるかが現在の2大ホット・イシューだ。シリアではイラン革命防衛隊のメンバーやその別動隊と言ってよい「ヒズボラ」戦闘員がアサド政権を支えて戦っている。一方のイエメンでは、サウジアラビア軍が直接介入しており、毎日のように戦死者を出しているのだ。ロシアがイランに強く介入すれば、問題は解決に向かうが、米国が「戦略的な選択ミス」を犯した現状は、ロシアにとっては前世紀からずっと続いてきた地政学上の失地を回復する大チャンスである。だから容易な交渉ではない。
◆サウジ王子、米紙投稿で「米の暴挙」非難
バンダル王子は上記の投稿で、(北朝鮮の核武装を許した)1994年のクリントン政権による北朝鮮との合意は、誤った諜報情報に基づく判断であったと言い訳の余地もあるが、今次オバマ大統領の選択はすべてを知り尽くした上での決断ゆえ更なる暴挙だと批判している。「アラブの春」を経て、中東にはテロと戦争が溢れているが、その主要なプレイヤーであるイランを米・ロがこぞって支援する構図になってしまった。米国は、ウクライナをめぐってロシアに経済制裁を加え、安保理ではことごとく対立するというのに、あなたの口利きのおかげで何とかイランとの合意がまとまったと、オバマ大統領はプーチン大統領に感謝の電話をかけたのであった。