◆イランと戦争なら最大犠牲者に
UAE(アラブ首長国連邦)の外交姿勢が急変した。
同盟を組んで戦っているサウジアラビアには挨拶もせず、イエメンから突如一方的な撤退を始めたかと思えば、イランへは6年ぶりに沿岸警備協議のため代表団を派遣した。米国・サウジと距離を取り、イランとは融和を模索するかつての中立的政策に転じたのだ。「戦争になれば自国が最大の犠牲者になると認識したのではないか」と観測筋は指摘する。確かに、イランと戦争になれば、ドバイやアブダビの高層ビル群はイランの弾道ミサイルや無人機攻撃で灰燼に帰すかもしれない。
UAEに白旗を上げさせるにはミサイルすら不要、という論者もいる。UAEは人口の約9割を占める外国人労働者によって支えられている国だ。イランの武力攻撃の脅威が高まり、安全の不安が生じただけで人々は逃げ出し、経済は壊滅する、というのだ。いや、実際その「戦争」は既に始まっている。英国がしなくてもいい「イラン・タンカー拿捕」をジブラルタル海峡で実施したため、経済封鎖圧力に喘ぐイランはホルムズ海峡で英国タンカーを拘束して対抗。その結果英国は、自国船にホルムズ海峡に近づかないよう警告した。専門家は口をそろえて「ホルムズ封鎖はない」と言っていたのに、皮肉にもそれは、英米の「イラン封鎖」の帰結として、具体的な姿を現し始めた。
◆UAEはエネルギー・商業の要
ホルムズ海峡の安全通行は、UAEだけでなく、日本を含む世界経済にとっての生命線だ。4千人を超える在留邦人がこの国に暮らしているのも、世界物流のハブ、ドバイに日本企業数百社が進出しているからである。夥しい数のコンテナが、ペルシャ湾には出入りしている。UAEは、エネルギー安定供給の面だけでなく、全ての商業活動の要であり、いわば日本とは運命共同体である。
しかし2015年、イエメン内戦に介入した頃から、UAEは首をかしげざるを得ない強硬な外交姿勢を取るようになる。湾岸で最も穏健なイスラム国家である同国と、最も閉鎖的で厳格なイスラムを国是とするサウジが共闘して、カタールを事実上経済封鎖したのはその最たるものだ。断交側はカタールがイラン寄りであると非難したが、イラン革命後の欧米の制裁下、何十年にわたってイラン経済を支え、発展してきたのがドバイであって、イランとは切っても切れない関係にあることは誰もが知っていた。それだけに、今回のイラン擦り寄り姿勢はむしろ当然と言えよう。
◆日本に求められる火消しの努力
UAEの事実上の指導者であるムハンマド・アブダビ皇太子は、急遽サウジアラビアを訪問、この大いなる「裏切り」を説明した模様である。その前日には、UAEの支援する武装勢力が、サウジや国連も支援するイエメンのハディ政権を南部最大都市アデンから放逐する戦闘も起きていた。皇太子が、どのような筋書きで顛末を言いくるめたのか不明だが、今のところUAE・サウジ関係は平穏を保っている。
しかし、いつどのような急展開が待ち受けているかはわからない。ペルシャ湾には英米の艦船が集結し、「平和か戦争か」の最重大局面を迎えている。運命を共有する我が国としては、艦隊派遣の可否を議論するだけでなく、独自の和平努力を続けるカタール等も含め、これら湾岸首長国との政治対話を強化して、火のついた導火線を揉み消す努力が求められている。