◆覆い隠される集団虐殺の事実
一橋大学名誉教授で現在は同志社大学で教鞭(きょうべん)を執る内藤正典氏が授業で「イランはイスラエル攻撃で何に報復したのか?」と聞いたところ、学生は誰も知らなかったという。その答えは、今月初め、ダマスカスのイラン大使館領事部をイスラエル軍機が爆撃し、革命防衛隊の幹部ら7人が殺害された事件であるが、ただでさえガザ地区での「戦争」に忙しいイスラエルが、なぜそのような作戦に踏み切り、戦線を拡大するようなまねをしたのか? それが、「ガザ戦争」に後ろ向きな姿勢を見せ始めた米国バイデン政権を引きずり込むためのネタニヤフ首相の奇策である、という点で観測筋の見方は一致している。
イランが、真にパレスチナ人の支援者であるなら、あえて報復せず、ネタニヤフ首相の孤立化を進めるという道があった。しかし、今回イランが反撃したことで、米国の宿敵でもあるイランとイスラエルの対決が前面に出ると、米国の世論(世界的メディアの目)からは、イスラエルが犯している日々の集団虐殺の事実が覆い隠されることとなる。
◆執拗な攻撃の手
イスラエルにイランから数百発のミサイル、ドローンが襲来した日も、その翌日も、イスラエル軍がガザ地区への攻撃の手を緩めたことはない。ガザ保健当局の集計で、1日平均50人前後の住民が文字通り虐殺されている。17日に小職が通訳放送したアルジャジーラのレポートの中で、ガザ市で自宅を爆撃された一族の遺族は、「イスラエルは別の人(イスラエルの言う『テロリスト』)の家を攻撃したと言っているが、その家は別の場所にある。彼らはわざと『誤爆』して民間人虐殺を正当化し、パレスチナ人の士気をそぐ戦略なのだ」と述べていた。
この建物では、2人が即死し、多数が病院へ運ばれ、9人ががれきの下に埋もれたまま、いまだ救出できないでいると伝えられていた。その多くは小さな子どもだ。この日は買い物客が集まる別の町の市場も爆撃されており、このような現場が毎日いくつも発生しているのだ。戦闘開始からの累計死者数は、3万3899人に達した(17日ガザ保健当局発表)。
◆「自衛」の美名の下続く残虐行為
地区全体を封鎖して食糧の供給を断ち、飢えた人々が配給物資を受け取ろうと集まったところを爆撃する。そんな、単に戦争犯罪、非人道的行為というだけでなく、およそ人間のすることとは思われないような残虐な行為が「自衛」の美名の下に実行されている。国際司法裁判所の暫定命令も、国連安全保障理事会の即時停戦決議も無視し、あらゆる国際的圧力に抗して、罪のないパレスチナ人を虐殺する行為が続けられている。その目的は、パレスチナ人を追放・隷属させるイスラエル領土の拡張と安全保障であり、これを可能にしているのは、米国の軍事・財政支援、そして政治的支援だ。
ラファへの地上作戦の実施は時間の問題とされるが、この作戦がまだ行われていないといっても、ラファは毎日空爆され、栄養失調で子どもが次々に亡くなっている。医療機会を奪われた病人、けが人は爆撃されなくても死んでいくが、イスラエル軍は病院そのものを封鎖し、攻撃し、救急車を救急隊員もろとも爆撃する。これほどの非人道的行為が半年以上も続いているというのに「最も信頼できる同盟国」たる日本は、米国に忠告の一つもしないのか? 「集団虐殺に加担してはならない」。この当たり前の叫びが、欧州の「文明国」をはじめ世界中で沸き起こっている。