リビア分割?アラブは新冷戦時代

◆トルコの軍事支援で情勢転換

ワグナーは、ロシアの民間軍事会社である。ロシア政府は公式には否定するが、同社はシリア等いくつもの地域で、ロシアの軍事戦略実現のために働いてきた。リビアではカダフィ後の「国盗り」を狙うハフタル将軍側について傭兵戦を展開、緒戦を次々に制した。ところが、5月、首都トリポリを包囲し、総攻撃を開始すれば国民合意政府(GNA)が消滅するかと思われたとき、情勢は180度転換した。トルコがGNAへの軍事支援を表明、何とシリアのイスラム系戦闘員を空輸して前線に立たせ、ハフタル派の傭兵部隊を蹴散らしたのである。GNA軍は起死回生、西部の主要都市と戦略拠点を回復した。
一方、負けるものかとワグナー側もシリア東部でリビア向けの傭兵を採用しているという。この報道には驚いた。現地の同社代理人は、一人採用するごとに数百ドルの手数料を手にし、兵士を送り出した家族には1千ドルが手渡されているという。イスラム国(IS)が去って平和になっても、仕事はない。9年間の内戦を経てなお、外国に行って同胞同士殺し合わなければならないとは、神も仏もない世界だ。

◆米国がGNA支持鮮明に

このリビア国民不在の内戦は、アフリカ最大の油田を擁し、地中海南岸の戦略的要衝に位置する同国への外国勢力の激しい干渉、後押しの結果だ。アラブ首長国連邦とエジプトがベンガジ(ハフタル派)にあからさまな軍事支援をしているのは、GNA政府が「政治イスラム」指向で、ムスリム同胞団員を多数かくまっているからだ。これに、シリアに次ぐ第二の地中海の軍事プレゼンスを確保したいロシア、旧宗主国イタリアの権益を奪う形で影響力を増したいフランスが加わっている。
他方トリポリ(GNA)をトルコが強力に支援するのは、元来、イスラム主義で波長が合う上、近隣諸国に抜け駆けして海底ガス田の開発権を取り込みたかったトルコに都合のよい協定を快く結んでくれたからだ。正規軍兵士育成のための協力協定にも署名した。
しかし、最近の最も重要な動きは、米国がGNA支持を鮮明にしたことだろう。6月下旬、米アフリカ軍司令官がトリポリを訪問、GNA首脳と協議した。声明は「戦闘の停止と交渉再開」を呼びかけたが、この状況下での停戦とは、すなわちリビアの分割支配である。これまで静観していた米国が積極的なGNA支援に回ったのは、当然ロシアの動きを見てのことであろうが、トルコがひとりGNAのパトロンとしての地位を固めつつあることも傍観するわけにはいかない。

◆「政治的イスラム主義」VS「世俗主義強権国家」

このがっぷり四つ。どちらか一方の完全勝利は望めない。筆者は、このような状態は南北朝鮮や、かつてベトナムが南北に分割された事情に似ていると思う。それは、以前の共産陣営vs自由陣営という構図ではなく、政治的イスラム主義vs世俗主義強権国家のにらみ合いである。アラブの春を契機に、中東はこのような構図の新冷戦時代に突入した。カタール危機(封鎖)がなかなか解決しないのはこのような状況が背景にあるからだ。
また、トルコのエルドアン大統領はアヤソフィアをモスクに戻すと宣言して世界中のイスラム教徒のハートをわしづかみにしたが、サウジアラビアの急激な世俗化は、サウド家が2つの聖地の守護者としてふさわしいかという、危険な議論を呼んでいる。ベトナムではサイゴンが陥落したが、結局資本主義の国になった。政治的イスラムに明日はないと言われるが、この対立も時と場所により様々な態様を示しつつ、域内政治の基礎的与件を提供し続けるものと思われる。

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