◆オマーンの配慮
イスラエルの民間航空会社アルキアによれば、アラビア半島先端のオマーンが領空通過許可を出さないため、同社が予定していたゴア(インド)便の就航が無期延期されたという。
アブラハム合意(2020年)でイスラエルとアラブ首長国連邦などとの関係強化が図られたことを背景に、サウジアラビアはイスラエル国籍機の領空通過を許すようになった。しかし、インドを目指すには、さらにイエメンかオマーン、さもなければイランの上空を横断しなくてはならない。イランや、イランの影響下にある勢力が交戦中のイエメン上空は飛べないため、オマーンは現在、唯一インド洋に抜けることのできる回廊だ。
しかし、オマーンはさまざまな条件をつけて、イスラエルの要請を断り続けているのだという。これは近隣国との穏便な関係を重んじるオマーンがイランを刺激しないよう配慮している、ともっぱらの噂だ。
◆イラン製ドローンがウクライナ攻撃
ロシアはイラン製のシャヒド型ドローンを使用してウクライナの都市を攻撃した。このことでもイランは注目を浴びたが、イラン製の弾道ミサイルや短距離ミサイル、そしてドローンは何年も前から域内の親イラン武装組織によって使用され、イスラエルやサウジの標的が攻撃されている。それに加えてイランは、国際原子力機関(IAEA)の査察を拒否し、ウランの濃縮を続けた。その濃度と量は既に核兵器が製造可能な水準に達しているという見方がある。
そんなイランで、国全体を揺るがす抗議デモの嵐が起きた。ヘジャブ(頭部を覆うスカーフ)を正しく着用していないとして、風紀警察に連行された若い女性が死亡した事件がきっかけとなり、日頃から経済の悪化に苦しみ、神権政治の息苦しさに不満を持つ人々の怒りが爆発したのだ。抗議のデモは全国主要都市に広がり、在外人権団体の調べでは、200人以上が鎮圧作戦の犠牲となって死亡したとされる。
◆弱腰のバイデン政権
イランはどこへ向かうのか。今回の抗議行動の規模は過去に繰り返し起きているデモに比べても大きく、SNSの発達も手伝って、世界規模で広がった。しかし、現ライシ大統領の体制を揺るがすような力にはなりにくい、と見る向きが支配的だ。それは、反乱する民衆を束ねるような、コアとなる指導者が見当たらないからだ。
また、宿敵米国のバイデン政権自体が過去に公言しているように、イランの体制転覆を望んでいないことが大きい。抗議行動の広がりと当局との衝突激化に対し、米国は「(デモ参加者の)人権が尊重されるべきだ」(9月30日、マレー・イラン問題特使)という声明を出すだけで、制裁強化にも動いていない。ロシアへのドローン供与に抗議して追加制裁を決めた欧州連合(EU)とは対照的である。
筆者は理解に苦しむが、バイデン政権がイラン神権政治に弱腰である理由は、今もなおトランプ政権が一方的に反故にした核合意の復活に期待していること、および、ウクライナ情勢が混迷し、エネルギー需給が逼迫(ひっぱく)する中で、新たな問題を抱えたくないからだとされる。米国の歴代政権は、イランとは40年余りにわたって対峙(たいじ)しながら、その存続を助けてきた。今後も、革命防衛隊が支えるイラン神権政治は、中東のみならず、世界の舞台で「悪役ぶり」を発揮していくのであろうか。