エネルギーはみんなのもの(5の2)

「エネルギーはみんなのもの」ということについて、今一度考えてもらいたい、と思う。
私達日本人は、電気やガソリンをあたかも水や空気のようにいつでもどこでもあるものと考えて、いや、考えることもなく利用してきた。確かにそれは水や空気のように無くてはならないものである。電気が停まれば、私達の生活は一時たりとも成り立たない。しかし、それが水や空気と違うのは、稀少であってコストが高いこと、そして悲しいかな、日本には非常に少ないため、そのほとんどを輸入に頼っていることである。
また、ムバラク氏が糾弾されるのも、ティモシェンコさんが逮捕されたのも、その底流にあることは資源(ここでは天然ガス)は公共財、みんなのものだ、という当たり前の認識である。この認識において日本は途上国たるエジプトやウクライナよりはるかに遅れている、と言えないだろうか。
「いや、そんなことはありません」という主張もあるだろう。稀少な公共財だからこそ、その効率的調達は「おかみ」に任せていたのだ。日本人が江戸時代以来身に付けた、社会的調和を保つことのできるよい習慣である。電力会社は一応民間企業という形は取っているが、その実態はおかみの一部であり、地方においては県知事よりも権力がある、ということを言う人もいる。中央においても、東電の会長は経団連の副会長未満の待遇を受けることはなかった。それは、公共財たる電力を立派に国民全体に安定供給、効率的供給する上で、エリート集団による采配がベストと我が国社会が考え、実行してきたからであろう。
私は、そのこと自体はそれほど間違った選択でなかっただろうと思う。なぜなら、そうでない選択をした場合の長所、短所ということを常に比較しなければならないからだ。どの世界にもどの時代にも、あるひとつの制度・政策は、かならず良い面と悪い面があり、すべてOK、ということは有り得ないのである。数ある選択肢の中で、最も効果的で、最も害の少ないものを選ぶ他はない。
さて、我が国は今、かつてなく、またどこの国よりも、電力のみなもとである炭化水素資源を安く・かつ安定的に調達しなければならない、という国運を賭けた命題に直面している。この時において、従来どおり電力料金に転嫁すればよいから、という態度で電力会社に高い石油やガスを買ってもらいたいとは思えないし、もはや許すべきではないと思う。このことを放置すると、どういうことになるかは前稿でも述べたつもりだ。
ならば、なぜエジプトやウクライナのように刑事罰で縛ろうとしないのか。極論と言われると思うが、「石油・ガスを国際標準価格以上で購入した者は無期懲役」という法律があれば、交渉に臨むおかみの態度は少しは真剣なものとなるだろう。またそれは同時に、高値を期待している産油国側に対するバーゲニング・パワーともなる。相手が高値を飲む可能性はないからである。
こう言うと、そんなことをしたら、日本は石油を一滴も輸入できず、電気も失われてしまう、という悲観論を述べる人も出てこよう。私は、絶対そうはならないと思うが、なるかどうかは、やってみなければわからない、というのが妥当な結論ではないだろうか。現状は、やりもしないで、言葉は悪いが「産油国の言いなり」になっている、というのが実態である。
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     クウェートのサバーハ首長「日本の復興に参加させてもらった」
     (写真は駐日クウェート大使館HPより)
サバーハ首長は、震災の報を聞き、日本に対し500万バレルの原油を義援金代わりに贈ることを決定、この引渡しは既に順次始まっている。500万バレルとは、金額にすると×100ドルで5億ドル(約400億円)になる。日本の現在の1日の原油消費量は推定約450万バレルなので、1日強、というところだが、クウェートの国家収入の大部分は原油販売代金でありその1日の生産量は約250万バレル。ということは、首長は2日分の国家の収入を全部日本にくれた、ということになる。これは決してケチな支援でない。
写真に付け加えた首長の言葉は先日小池百合子元防衛相が首長を訪問して会見し、お礼を述べられた際、先方が語った言葉として報じられたものだ。私は、オタイバ駐日大使が、「クウェート解放(湾岸戦争)のときの日本の支援に対する感謝の印」と表現されたのを聞いている。
このように、日本はひとりではない。世界に支えられている。日本の工業製品が湾岸産油国の発展と日常生活を支え、彼らの輸出するエネルギー資源が私達の生活を支えている。この互恵の関係を考えるとき、困っているときはお互い様と、協力し合う関係、し合える関係を作って来たし、これを強化しなければならない。
また、100年に一度、500年に一度という大災害が起きたのだから、そのときは素直に「助けて下さい」と友人に頭を下げることも大切だろう。
私の主張は、義援金もありがたいが、アジアの一番の友人である湾岸産油国には、今後3年間、あるいは復興のめどがつくまで、石油を2ドル安く売って欲しいとお願いすることだ。言ってみれば100円のトマトを98円で売ってくれないか、というお願いである。2ドル安くなると、日本全体では1日あたり900万ドル、7.2億円助かる。これは1年で2628億円、3年間では7884億円日本経済を助ける。天然ガスも同じように2%下げてもらえないだろうか。日本経済は兆の単位で助かり、その効果は結果として湾岸諸国に還元されるということを各国の王様は良く知っている。喜んで協力しよう、と言ってくれるだろう。
このことに私は確信がある。

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